W杯で赤字のABEMA、巨額投資をどう回収? 「次の一手」を予想してみた:妄想する決算「決算書で分かる日本経済」(2/7 ページ)
昨年末のW杯では、全試合無料生中継を実施したサイバーエージェントの「ABEMA」に注目が集まりました。巨額を投じたABEMAのメディア事業は現状なお赤字ですが、今回の投資によって2つの成長余地が生まれたと筆者は考えます。
増収だが減益、その理由
22年9月期に増収ながらも減益となった要因には販管費の増加もあります。
特に増加しているのは人件費と広告費で、それぞれ67億円、151億円の増加となっています。従業員数は739人増です。ゲーム事業で大きな利益を出せたため、今後の成長に向けて人件費にも投資したということでしょう。
続いて直近の23年9月期の第1四半期の業績を、前年同期比で詳しく見ていきます。
売上高は前年同期比2.1%減の1675億7700万円、営業利益は198億400万円から12億5500万円の赤字に転じ、経常利益は198億3600万円から9億3900万円の赤字になり、純利益は60億9100万円から50億200万円の赤字と、減収で赤字転落となってしまっています。
赤字の大きな要因はABEMAのW杯放映で、メディア事業は93億円と大きな赤字です。W杯の放映権料は200億円と推定されている上、大きな配信負荷に耐えるためにはサーバーの増強なども必要でした。想定通りだったと考えられます。
経常利益は9億3900万円の赤字に対して、純利益は50億2000万円の赤字と赤字幅が大きいですが、これは前期に大きな利益を計上していたために税負担が大きいことに起因しています。実際に税引き前の当期純利益は5200万円の赤字と非常に小幅な赤字に収まっています。このため、純利益に関しては大きく気にする必要はないといえます。
3つの事業いずれも利益面は悪化
業績について、もう少し詳しく見ていきます。
サイバーエージェントの事業セグメントは(1)メディア事業(2)インターネット広告事業(3)ゲーム事業と3つあります。それぞれの23年9月期第1四半期時点の業績と、前年同期比での推移は下記の通りです。
- (1)メディア事業:売り上げ334億円(34.0%増) 利益38億円の赤字→93億円の赤字に
- (2)広告事業:売り上げ956億円(12.7%増) 利益50億円(13.0%減)
- (3)ゲーム事業:売り上げ409億円(29.9%減) 利益52億円(69.6%減)
メディア事業は増収で赤字幅拡大、広告事業は増収減益、ゲーム事業は減収減益と全事業で利益面は悪化してしまっていることが分かります。特にウマ娘の大ヒットからの反動が大きいゲーム事業は大きな落ち込みです。
まず注目すべきは、やはりメディア事業のABEMAに、W杯がどれだけの影響を及ぼしたかでしょう。
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