相次ぐ値上げでも“過去最高益”の東京ガス 赤字転落の東電と明暗分かれた理由:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
東京ガスが好調だ。22年度決算は、過去最高益となる見込みだという。一方で、同じインフラ企業である東京電力ホールディングスは赤字へと転落する見込み。どこで明暗が分かれたのか。
東京電力が1日に発表した22年度の第3四半期決算では、最終利益が前年同期の98億円から、6509億円の赤字に転落した。背景には原発事故の賠償金なども絡んではいるが、22年度において十分な値上げを行いきれていなかったこと、火力発電への依存度が高まったことで、円安や原油・石炭高の影響を正面から受けてしまったことが大きい。
東京ガスが大きな利益を獲得できたその要因の一つとしては、「ガスの調達力」にある。東京ガスは、一般的な天然ガスの輸入事業者がガスを購入する際の「スポット(随意)」契約ではなく、ある程度の需給を前提に決定された「ターム(継続)」契約によって多くのロットを継続的に仕入れている。
都度契約するスポット契約の場合と比較して、ターム契約は比較的安い値段で仕入れることが可能だ。それだけでなく、期間が決まっていることから、市況がある程度変動しても仕入れにかかる内部コストへ反映されるまで一定のタイムラグが生じる。
つまり、東京ガスは調達コストの安いターム契約で原油高の影響を軽減させられたのだ。また、ターム契約であることから価格改定に数カ月のタイムラグがあることで、実際の内部コストの高まりが繰り延べられているのも史上最高益(予定)の背景だといえるだろう。このように考えると、23年度からは、値上がりが一巡した相場で仕入れることとなるため、22年度ほどの利益率にはなりにくいと考える。
このように、東京ガスの好決算は決して便乗値上げが原因ではない。一方で、同社は配当と自社株買いによる株主への利益還元を50%程度とする目標を掲げている。株主・資産家に利益の半分をも還元するのであれば、果たして毎月・大幅な値上げは必要だったのだかと思われるのも事実だろう。
ただでさえ値上げ・低賃金に苦しむ人が多い中、今後の価格改定などには相応の反発が生まれることも予想される。渋沢氏の理念である「公益の追求」と、株式会社としての「利益追求」のバランスを考慮し、適正な価格設定やサービス提供などに努め、社会との信頼関係を維持していくという難しい立ち位置が、同社に求められる。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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