大手の賃上げで広がる格差 人材流出に苦しむ中小企業、採用難にどう対応する?:10人採用したが、10人離職も(2/3 ページ)
物価高に伴い、賃上げを実施する大手企業が増えてきました。賃上げする体力のない中小企業はどう対抗すればいいのでしょうか?
中小企業は、採用難とどう戦う?
先述したように、労働力人口は減少の一途をたどっています。さらに企業は、年次有給休暇の取得義務化や残業時間の上限規制強化への対応も迫られています。DX推進や外国人労働者の受け入れで人材不足が多少緩和されたとしても、それだけで賄い続けるのは困難でしょう。よって人材の奪い合いはますます過酷になると考えられます。
さらに従来、中途採用に求めていた即戦力性というニーズも大手企業を中心に薄まりつつあり、同業他社との競争だけでなく異業種・異職種との争奪戦に発展しつつあります。
これにより20〜30代などの将来有望な若手人材が業種・業界の垣根を超えて転職していく、引き抜かれるというケースも生じるでしょう。その場合、中小企業は今まで以上に採用に労力とコストをかけて取り組まなければならなくなるでしょう。
では、うまく採用を進めるためには、どのような工夫が必要でしょうか。マイナビが学生向けに実施したアンケートによると、求職者が企業を選ぶ際に注目する点ベスト3は「人間関係の良さ」「成長できる環境」「福利厚生の充実」となっており、最も注目するポイントでは「成長できる環境」がトップでした。
一般的に「給与の高さ」が最も重視されると想像されますが、長いキャリア人生を考えるとそれほど単純ではないのでしょう。
リクルートワークス研究所も「企業の新卒採用施策、採用比率、初任給額が採用充足に与える影響」に関するレポートを公開。その中で、初任給の引き上げを行った企業と行わなかった企業の3年間の新卒採用の結果を踏まえ、「人気のある企業の初任給額が高いだけであって、初任給を上げた企業の人気が高くなるわけではない」と分析しており、「不人気業種において初任給を上げることは充足率低下に対する一種の“防衛手段”として機能している可能性がある」と評価しています。
要するに他社よりも明らかに劣る初任給設定は応募者の減少を招くが、引き上げさえすればそれに比例して応募が増えるというわけではないということでしょう。
よって、中小企業にとってもベースアップへの挑戦は必要不可欠ですが、人が育つ環境や仕組みを整え、それを求職者に打ち出すことが何よりも重要です。実際、効果的な育成ができれば業績はついてくるので、中小企業では人材育成への投資を増やして業績を高め、それを原資に労働条件を改善していくというシナリオが現実的でしょう。
また人間関係の良さ、福利厚生など自社の魅力をうまく打ち出すことも必要です。今一度、自社の魅力を深掘りしてみましょう。自分たちで気づいていない魅力というのが、どの会社にも必ず潜んでいます。それらを探し出し、採用サイトやSNSで積極的に発信することで、魅力的な企業というブランディングやリファラル採用につなげていけるでしょう。
今までどの会社も営業力や商品力を高めるための取り組みをしていますが、今後は採用力を高めることも重要な施策になります。
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