本当は怖い「人的資本開示」 正しく対応しない企業はどうなるのか?:人的資本の今とミライ(1/3 ページ)
人的資本情報の開示がいよいよ日本でも義務付けられる。第一弾として、2023年3月期決算の有価証券報告書から大手企業を中心に開示が始まる。なぜ今、「人的資本」が注目されるのか。対応を怠った企業には、どのような未来が待ち受けるのか。人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。
人的資本情報の開示がいよいよ日本でも義務付けられる。第一弾として、2023年3月期決算の有価証券報告書から大手企業を中心に開示が始まる。
金融庁は22年11月7日、「企業内容等の開示に関する内閣府令」を改正。具体的な開示項目は(1)女性管理職比率(2)男性の育児休業取得率(3)男女間賃金格差――の3つだ。
実はこの3つのうち男女間賃金格差についても女性活躍推進法の開示必須義務(22年7月施行。事業年度の開始後3カ月以内)となった。また、男性の育児休業取得率は「改正育児・介護休業法」により、23年4月から従業員1000人以上の企業は公表が義務付けられている。
それにもかかわらず、投資家向けの有価証券報告書でも開示しなくてはならない理由は何か。人的資本経営が叫ばれ、競争力の源泉である人材投資が企業の持続的成長に不可欠であることが投資家にあらためて認識されているからだ。
なぜ今、「人的資本」が注目されるのか
人的資本とは、「従業員と従業員の持つ能力・スキル・知識などの価値を生み出すために企業が投資と捉える概念」だ。人事関係者にとっては決して新しい意味を持つ言葉ではなく、人的資本=人材の活性化については長年議論してきたテーマである。
人的資本経営とは、昔から言われる「人を大切にする経営」とも言い換えてもよいだろう。
それが近年なぜ盛り上がっているのか。その契機となったのはリーマンショックと金融関係者の動きだ。
パーソル総合研究所シンクタンク本部リサーチグループの井上亮太郎主任研究員はこう説明する。
「リーマンショックが発生し、機関投資家などの金融関係者は財務指標だけを見ていても企業の将来は予測できないという認識を持つようになった。見通しが難しく曖昧で複雑なVUCAの時代では非財務情報に将来の予測性があるのではないかと投資家が考え始めた。その結果ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が盛り上がり、最初に気候変動リスクが注目され、次いでガバナンスに焦点が当てられ、ガバナンスコードなど情報開示が義務化されていった。その過程で最も企業業績と密接に関係しているのはどうやら人的資本のSだと証券会社など金融関係者が言い始めた。そこでSのスコアをどのように可視化するのかについて金融関係者が強力にプッシュする形で人的資本の情報開示の流れに至っている」
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