本当は怖い「人的資本開示」 正しく対応しない企業はどうなるのか?:人的資本の今とミライ(2/3 ページ)
人的資本情報の開示がいよいよ日本でも義務付けられる。第一弾として、2023年3月期決算の有価証券報告書から大手企業を中心に開示が始まる。なぜ今、「人的資本」が注目されるのか。対応を怠った企業には、どのような未来が待ち受けるのか。人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。
非対応は「恥ずべき」こと? 欧米を中心に広まる価値観
こうした動きは世界的な流れだ。人的資本情報の開示は欧米でもいち早く始まっている。
EU(欧州連合)は14年2月、加盟国に非財務情報の開示を義務付ける法律を施行した。またEUは22年6月、域内の上場企業に女性役員を社外取締役で40%以上か、全ての取締役で33%以上に登用するよう事実上義務付ける法案で大筋合意している。米国のナスダック市場は21年から、女性1人と性的マイノリティー(LGBTQなど)か、人種の少数派のいずれか1人の、最低2人を取締役に登用するよう求めている。
世界では、開示項目のトップに女性起用が入ることが共通認識になっている。なぜ女性なのか。日本の大手企業に投資する香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」のセス・フィッシャー最高投資責任者は女性起用に熱心ではない企業を「恥ずべきガバナンス」と指摘し、「女性は人口の半分を占め、企業にとって顧客の一部。従業員や株主の一部でもある。納得いく説明がなければ、経営陣に責任をとらせるべきだ」と述べている(『朝日新聞』23年1月14日付朝刊)。
もちろん開示項目は女性起用だけに限らない。政府は22年6月、岸田文雄首相が議長を務める「新しい資本主義実現会議」で「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画〜人・技術・スタートアップへの投資の実現〜」が閣議決定された。その中で「人的資本等の非財務情報の株式市場への情報開示と指針整備」が盛り込まれた。そして22年8月30日に「人的資本可視化指針」を公表している。
それによると「価値向上」と「リスクマネジメント」の観点から7領域19項目の開示事項の事例が示されている。具体的な領域では「育成」(リーダーシップ、スキル・経験など)、「エンゲージメント」「流動性」(採用、サクセッションなど)、「ダイバーシティー」(育児休暇など)、「健康・安全」(精神的健康、身体的健康、安全)、「労働慣行」(賃金の公正性、福利厚生、組合との関係など)、「コンプライアンス/倫理」である。
働く人たちの仕事に対する意欲や給与などの労働条件や心身の健康、ハラスメント防止などの労働環境の整備ができているかを開示する内容になっている。
現時点ではどの項目を開示するかは企業に委ねられている指針にすぎない。海外の投資家の開示圧力が高まれば、いずれ欧米のように義務化される可能性もある。
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