「ホロライブ」運営のカバー、上場で時価総額1000億円超えの可能性も? “UUUM化”回避がカギ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)
「ホロライブ」のカバーが3月27日に上場する。先に上場した同業のエニーカラーは、上場以降も順調に株価を高めて時価総額は1400億円以上にも達している。順調に見えるVTuberビジネスだが、「死角」はないのか。
警戒すべき“UUUM化”とは?
事務所に所属するVTuberの大半は「正社員」ではなく「個人事業主」として業務委託関係にある。
UUUMも同様の仕組みではじめしゃちょーのような大手YouTuberたちと収益を配分していたものの、彼らは一定料率でのレベニューシェア負担を過大に感じ、「離反」を選択した。一般にこのようなマージン料率モデルでは、所属YouTuberが稼げば稼ぐほど、同じサービスに対して高いお金をUUUMに支払わなければならない「逆進性」がある。これが有名YouTuberたちのUUUM所属に対するインセンティブを減少させたのだ。
業務委託契約は、お互いの経済的インセンティブが均衡する薄氷の上に成り立っているようなものである。YouTuberやVTuber事務所のように、収益の源泉が所属者の人気に依存する業態では、事務所側は必ずしも強い立場で交渉を有利に進められるとは限らないのだ。
有名事務所でデビューして、自身の進みたい方向性や不満がはっきりすれば、独立ないしは移籍というセカンドキャリアを描く――今後、VTuberの中でこうした流れが加速する可能性は高い。一方で事務所側は、囲い込みのために、月額の報酬や収益配分をよりVTuberが有利となるように設定する必要が生じる。できなければ著名VTuberをつなぎとめられず、これまでの高成長・高収益に陰りが出て“UUUM化”するリスクを潜んでいる。
そもそも上場している既存のタレント事務所を運営する企業の時価総額が、知名度の割にそこまで高い時価総額にならないのは、こうした人的依存に伴うリスクが価格に折り込まれているからであるといわれている。
果たして今後、多額の利益を生み出しているVTuber事務所は、所属VTuberにとってどのように映るのか。彼・彼女らが納得できるマネジメント体験を事務所側が提供できるかが、今後のVTuberビジネスの明暗を分けてくることになりそうだ。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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