トヨタはどこへ進むのか 新体制の行方:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
トヨタ自動車の社長交代で、新体制はどうなるのか。佐藤次期社長の会見内容やこれまでトヨタが行ってきた実績を振り返りながら、筆者なりの予想を立ててみる。
豊田体制と佐藤体制での違い
確かに、豊田体制と佐藤体制で少しだけ違っているところがあり、それは「モビリティ・カンパニーへのフルモデルチェンジに取り組んでいく」の中にある“フルモデルチェンジ”の部分で、従来の“モビリティ・カンパニーに変わっていく”から少し強調されている。違いはそれだけ。
そのため、全体としては豊田体制に対する批判や反省のスタンスではなく。まさに「継承と進化」であり、豊田氏がずっと行ってきた進化を今後も継続して進めていくことを意味していると筆者は受け止めている。
ではその強調されている部分が意味するものは何なのか? そこを解き明かしていくと、これからのトヨタが見えてくるはずだ。
T型フォード以降の自動車の歴史
そもそも大量生産で大幅なコストダウンを行い、庶民にも自動車が持てる社会を作り出したT型フォードを原点に置けば、以降の自動車の歴史は、多様化・細分化するニーズへの対応だ。T型フォードを挟んで対称なのが面白い。T型フォード登場以前の自動車は、一台一台がオーダーメイドのハンドメイド。それを規格化して大量生産することで革命が起こったわけだが、そうやって画一的なものを前に、マーケットはカスタマイズを求めた。量産の恩恵を維持した価格と多様化をどう両立するかは、以後ずっと自動車メーカーの勝負どころであり続けたのである。
フォードの天下が終わったのは、単一車種の大量生産とコストダウンにこだわり過ぎて、顧客の多様性への対応を怠ったからだ。GMは1920年代にプラットフォーム戦略を生み出し、商品の多様化を打ち出した。クルマの基本となるシャシーとエンジン、トランスミッションを汎用化してコストを下げつつ、商品にデザインや性能差を付けていった。「手の届く範囲での贅沢」を実現することで、多様なニーズに対応したわけだ。
以後ほぼ20世紀を通して、汎用プラットフォームは最良のソリューションであり続けた。2000年代に入ると、そこに綻びが生じ始めた。普通のセダンとクーペがあったとすれば、クーペにはより高い能力が求められる。普通クーペモデルの方がより高い運動性能をあたえられるからだ。競争が激化すれば、そういう競合車リーグで負けない様に戦わなくてはならない。しかしそうしたニーズ対応で、カスタマイズ項目が増えていくと、汎用シャーシを使う意味が薄れていった。カスタマイズコストが新規でシャシーを開発するコストとさして変わらなくなってきたのだ。
にもかかわらず顧客はより多様性を求める。まずベースモデルをつくり、それを改造してバリエーションをつくり出すのではもう間に合わない。
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