トヨタはどこへ進むのか 新体制の行方:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
トヨタ自動車の社長交代で、新体制はどうなるのか。佐藤次期社長の会見内容やこれまでトヨタが行ってきた実績を振り返りながら、筆者なりの予想を立ててみる。
「TNGA」導入後のトヨタはどう変わったのか
そこで出てくるのが一括企画である。同じシャシーを共用する車両群に必要な拡張範囲をあらかじめ洗い出して、共用する部分と個別に変える部分を最初から設計に織り込むのである。「ここをもう少しこうしといてくれればカスタムが楽なのに」ということは日々あったはずで、それらの経験を元に、派生モデル全部を見通した全体最適設計を戦略的に行う。これがコモンアーキテクチャの考え方だ。ものすごく単純化すれば、最初から改造を前提にしたベースシャシーをつくる。同時にその共通部分の能力を高く取るということもできる。
料理に例えれば、最高のホワイトソースをつくってしまえば、それをベースにグラタンもシチューもドリアもクリームコロッケもつくれる。ホワイトソースのレベルが上がれば、全ての料理のレベルが上がる。こういう共通部分を見つけ出して、全てのクルマのレベルを上げつつ、全体としてコストダウンを図る。われわれが頻繁に耳にする「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ」とはつまりそういうものだ。
マツダの言い方ではそれを「固定と変動」と呼ぶ。つまり固定する部分はガッチリと固定してしまう。最近トヨタが頻繁にアナウンスしている「群で戦う」というのがここに加わる。カローラにはセダン、スポーツ(ハッチバック)、ツーリング(ワゴン)、クロス(SUV)を織り込んで、コンポーネンツを共有する。クラウンにはクロスオーバー、セダン、スポーツ、エステートが用意される。
そうした車両群全体のコンポーネンツを戦略的に共用化することで、コストが大幅に下がる。例えばクラウンは4車種を開発しつつ、その開発コストは従来の2車種分でしかない。しかも、群全体で捉えれば大きな数になるから、量産効果が自然に効いてくる。数が多いからコストが掛けられる。コンポーネンツの能力が上がる。つまり「もっといいクルマ」である。「群で戦う」ことによって、かつてGMがやっていた共用化をもっと戦略的に行っているわけだ。
いやまだ分かりにくいかもしれない。逆から見れば、有りモノがスタートラインに存在し、必要に応じてそれをカスタマイズするやり方では、結果はどうしても出たとこ勝負になってしまう。それをあらかじめ計算に入れてしまえば一気に全体最適化ができるという寸法だ。
そしてそれに、ソフトウェアドリブンという考え方が付帯する。おそらくは、ここが佐藤新体制の重要な改革ポイントになるだろう。
資本主義の世界で、際限なく拡大していく顧客の欲望というニーズに対応し続けようとすれば、ハードウェアだけでは限界がある。つまり、従来ハードウェアで付加してきた「変動」の部分をさらに充実してマーケットニーズに応えていくために、ソフトウェア領域を使って行く考え方である。あまり極端に単純化するのは好ましくないのだが、コモンアーキテクチャにおける固定をハードウェアで、変動をソフトウェアで行うイメージで捉えると分かりやすいかもしれない。実際にはハードの中にも固定と変動があるのであまり正確な言い方とはいえないが、あくまでもイメージ論として乱暴に言えばそういうことである。
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