トヨタはどこへ進むのか 新体制の行方:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
トヨタ自動車の社長交代で、新体制はどうなるのか。佐藤次期社長の会見内容やこれまでトヨタが行ってきた実績を振り返りながら、筆者なりの予想を立ててみる。
垂直統合型のBEVビジネスとどう戦っていくか
豊田社長の13年間で、ハードウェアのコモンアーキテクチャ化は長足の進化を遂げた。その果実を手にさらに先に歩もうとしている佐藤新体制で、進めなくてはならないのは、ソフトウェアドリブンによる変動をもっともっと鮮やかにしていく作業である。
それはおそらく次世代BEVの開発にも生かされていくだろう。TNGAでハードウェアの性能は向上し、コストも大幅に低減することができた。ただし、トヨタはこれからテスラや中国のBYDと言った垂直統合型のBEVビジネスと戦っていかなくてはならない。そこで問題になるのが、バッテリーコストである。一般にBEVにおけるバッテリーコストは車両価格の40%を占める。ここをどうやって下げていくかを緻密に考えていかなくてはならない。
そのためには、垂直統合型では、なぜ車両価格が安くなるのかを分析する必要がある。その中心にあるのはコモンアーキテクチャの概念だ。バッテリーを汎用化して、その開発コストをできるだけ多くの台数で割るから競合他社との比較で安くできる。それには個別のクルマごとに仕様の異なるバッテリーを用意していてはらちが開かない。群で戦う戦術でBEVを一括企画して、台数を増やすことが必要だ。そのための基礎的な準備はすでにTNGAでできている。
さて、全体として見れば、佐藤新体制は、豊田旧体制の正常進化の延長にあるということを、たぶんご理解いただけだと思う。戦略の細かい部分がどうなるのかは4月1日以降に開かれるであろう会見でもう少し明らかになるだろう。今からその発表が楽しみである。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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