皿の不審な動きを検知──「くら寿司」、迷惑行為対策でAIカメラ導入 批判されても守りたい信念とは(2/2 ページ)
回転寿司チェーン「くら寿司」が、レーンを回る寿司皿の不審な動きをAIカメラで検知する「新AIカメラシステム」を導入すると発表した。迷惑行為防止対策以外の狙いとは。
誤情報拡散中 「カメラは中国製ではない」「客の行動監視ではない」
同社の新システムを巡っては、ネット上で「カメラは中国製」という真偽不明の情報が拡散されている。「中国製ではない。システムも自社内のDX組織で開発した」と同社広報。「(AIを搭載した)中国メーカーの防犯カメラのシェアが高いため、誤った情報が拡散されているのではないか」と推察した。
「無関係の客の行動が監視される」といった懸念の声も出ている。これについても同社広報は「AIカメラの検知対象はレーン上の皿。レーン外の利用者の行動は検知対象外」と反論した。
迷惑行為多発も守りたい“桃太郎”のような「エンタメ性」
外食業界の各社では昨今、次々と迷惑行為が明らかになっている。回転寿司チェーンでは、客が注文した商品のみレーンに流す形式に変更した「スシロー」など、従来とは異なる提供方法を取る企業も出てきている。
こうした状況に対し、くら寿司は新システム採用で、注文品以外の寿司もレーンで提供する従来の方式を継続する方針を打ち出している。
同社広報は「『どんぶらこ』という独自の擬音語が生まれた昔話の『桃太郎』が子どもたちに親しまれているように、回転寿司は、寿司が乗った皿が回っているからこそ、エンターテインメント性がある」と指摘。「桃太郎の桃が川から流れてきたものではなく、地面に放置されたものならエンタメ性もなく、親しまれなかったかもしれない」とし「回転寿司には子ども連れのファミリー層も来店する。今後も食の安全を守りつつ、ワクワクするようなレストランを目指したい」と話した。
「法律だけではなく、システムで会社を守る」
食の安全以外にも、社員の雇用維持という視点も、取り組み強化の背景にはあるようだ。新システムに関する報道向けの説明会で、広報・マーケティングを担当する岡本浩之本部長は、飲食店における悪質な迷惑行為が次々と発覚していることについて「セルフサービスを提供する飲食店の利用に対し、不安を感じるお客さまが増えている。回転寿司チェーンだけでなく、外食産業全体の危機にもつながっている」と危機感を口にした。
迷惑行為の多発で、客足が遠のけば、企業業績に影響を及ぼす。実際、スシローは、迷惑行為によって、親会社FOOD & LIFE COMPANIESの株価が一時暴落。時価総額ベースでの被害額が150億円以上に及ぶとされる。業績悪化は社員の雇用にも影響する。
くら寿司広報は「社内には『食の楽しさを伝えたい』という夢を持って入社した社員もいる。迷惑行為をした人を罰する法律だけでなく、システムによって迷惑行為を防止するとともに、会社を守り、雇用を維持する必要がある」と強調した。
海外メディアも注目の「寿司テロリズム」
回転寿司チェーンで相次いで発覚した、客の迷惑行為。競合のスシローでは卓上の醤油ボトルや湯呑みを舌でなめる動画が物議を醸し「刑事、民事の両面から厳正に対処する」との声明を発表した。海外メディアも「寿司テロリズム」というワードで報じるなど、国外での関心も高い。
(関連記事:「スシロー」はなぜ、“食器舐め”本人の謝罪を拒否したのか 広報に聞いた)
一部には「たかが迷惑行為で被害届を出すのか」「加害者は反省している。大事にするべきではない」など、被害を受けた企業側ではなく、迷惑行為を行った人物への同情や擁護の声も散見される。
一定の批判を覚悟した上で、くら寿司が取り組みを強化した背景には、食の安全への危機感や、会社を守るという強い覚悟があった。
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