押井守が審査委員長 国際アニメ映画祭を「新潟」で開く理由:「やりがい搾取」改善のきっかけに(3/4 ページ)
3月17日から22日にかけて、新潟市で国際アニメーション映画祭が開かれる。井上伸一郎・フェスティバル・ディレクターと、ジェネラルプロデューサーを務める、アニメ製作会社・ジェンコ代表取締役の真木太郎氏に狙いを聞いた。
人材確保や育成につなげる狙い
――アニメの舞台をファンが観光する「聖地巡礼」をはじめ、アニメを地方創生に結び付けようとする動きも強まってきています。地方創生などの観点で、映画祭を通じた戦略はありますか。
井上: 人材確保や人材育成の場につながればいいなと考えています。実は近年、アニメ制作会社を地方に作る動きが非常に増えてきています。理由はDX(デジタルトランスフォーメーション)がアニメ制作会社にも広がってきているからなんです。
もともとアニメはアナログで作っていたため、東京の中でも杉並区や練馬区に一極集中して地場産業のような形で作っていました。ところがデジタル化が進んだことで、今では地方にいながらにしてもアニメ制作に関われるようになってきました。
――成果物が紙ではなく、データでやりとりできるようになりましたからね。
井上: 特にアニメーターは、かつては動画机が並んでいて、同じ空間で一斉に描いているっていう時代が長かったわけですけれども、特にコロナ禍に入ってから本当に個人の家でできる仕事というふうにどんどん変わってきているんですね。
KADOKAWAではアニメのスタジオをいくつか持っているのですが、実際に故郷でご両親の介護をしなきゃいけないからアニメーターの仕事を辞めなきゃいけないという方がいらっしゃいました。でも今ではデジタル化のおかげで、故郷に帰って介護しながらもアニメーターを続けられるような働き方が可能になったんです。アニメーターをはじめアニメ業界の人でも、介護や子育てをはじめ、その方の事情に合わせた働き方が選べる時代が来ています。
真木: 京都アニメーションや富山県のP.A.WORKSのようにアニメ制作会社を地方で新たに作る動きだけでなく、プロダクションI.GやMAPPAといった東京の老舗アニメ制作会社でも、地方都市にアニメスタジオを設立する動きが進んでいます。最初からDXに取り組んでいるCGアニメ制作会社はもっと全国に分散しています。今後もこの動きは加速していくんじゃないですか。
――DXによって、アニメ業界にも大きな変化が訪れようとしているんですね。
井上: これがやっぱりデジタルの力だなと思います。ただ、全部のアニメ制作会社がそうではなくて、調べてみたら「全然DXに興味ない」っていうスタジオもいくつかあってびっくりしたこともありました。なのでどんどん二分化していくと思うんですよね。ただ、これからのアニメ制作会社はどんどんDXしていかないと、いい人材が確保できなくなっていくと思います。
――新潟ではアニメやマンガ業界志望の方を育成する学校が数多くあり、その学生数も400人以上いるといわれています。日本有数の業界志望の人が集まる都市でもあります。そして『うる星やつら』『犬夜叉』の高橋留美子氏や、『るろうに剣心』の和月伸宏氏をはじめ、多くの漫画家やクリエイターを輩出してきた街でもあります。
井上: その新潟でアニメ映画祭を開いて、人材の確保や育成につなげていきたい狙いはあります。さらに絵は描けるけどアニメには興味なかった人や、小中学生の段階からアニメ作りに興味を持ってくれる方がどんどん増えていけばと期待しています。学生にとっても世界中から業界関係者が集まるので、そうした方々との触れ合いは、またとない機会になるのではと考えています。
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