なぜ研修をいくらやっても「実のあるもの」にならないのか?:ダメ研修を淘汰(1/3 ページ)
なぜ研修をいくらやっても、「実のあるもの」にならないのでしょうか。そんなダメ研修を淘汰するための方法を解説します。
なぜ研修をいくらやっても、実のあるものにならないのでしょうか。人事部に言われて、忙しい時間を割いて参加したにもかかわらず期待外れな内容だった場合の恨めしさたるや。筆者も受講側でそのような経験は多くあるので、気持ちはよく分かります。また、良い研修だったとしても業務に戻ると忘却の彼方……ということもしばしば。
その結果「研修なんて全く意味が無い」と、切り捨てる人が受講する社員側にも、人事部側にも一定数生まれてしまっている印象です。無駄な研修を実施すると貴重な時間が人数分失われることになり、逆に企業にとっての大きな損失です。
しかし、研修という取り組み自体が悪いわけでは決してありません。研修の内容を実務にうまく生かすことができれば、事業成長につながります。そして、今や「人的資本経営」の時代です。黙っていても、その機会が増えてくることは間違いありません。だからこそ「意味がないけど渋々受講する」という受け身な体制を植え付けてしまう現在の「ダメ」な研修スタイルからの脱却が必要となるのです。
ではなぜダメな研修になってしまうのでしょうか。その理由としては、(1)その研修自体のクオリティがそもそも低い、(2)対象者のレベルや事業部の戦略に基づいた育成方針とギャップがあるのどちらかに集約されます。「受講者のモチベーションが低い」という理由もありますが、それは結果として生まれるものであり、根本的な課題解決にはつながりません。
(1)については、そもそも目的の設定や育成戦略、選定やオリエンの方法に問題があるかもしれない、と振り返ってみるべきではないでしょうか。
筆者は博報堂コンサルティングでHR Design Lab.の代表を務めており、「自律的変革」をテーマとした企業支援を行っています。当該業務の一つとして、企業内研修のカスタム設計にも携わっており、直近3年で300回以上の企業内研修・セミナーを主宰しています。そのような業務の中で、研修の目的設定などが最初の段階でやや漠然としているケースが少なくないと感じます。
もちろん、その状態から本質的な課題を特定し、必要な研修に近付ける努力は双方に求められるものの、中にはそれを飛ばして明確な理由もなく受講者を選んだり、パッケージされた研修の内容に安易に合わせたりする企業もいます。そうなると、満足度も低くその後の成長にもつながらない研修になってしまいます。
ただ、より深刻な問題は(2)対象者のレベルや事業部の戦略に基づいた育成方針とギャップがある場合です。研修企画は、ふだん直接業務に関わっていない人事部発案であることも多く、現場の実態が見えていないこともしばしばあります。そのせいで、事業部の戦略に基づいた育成方針とのギャップが生まれます。実効性のある研修や教育を実現するためには、事業部による主体的な動きが欠かせません。
「それは人事部の仕事だから、われわれ事業部は関係ない」と高をくくることなかれ。今後研修の重要性がさらに増していくと、その量だけでなく、必然的に「質」の向上も求められていきます。そうなると今まで以上に、経営層や人事部から事業部に対して現場の視点を踏まえたスキル課題の発掘や見解の発信が求められる可能性も高まるでしょう。人事部や経営層から言われる前に、事業部のトップや各事業部のマネジャークラスは、年度の方針の中にデフォルトで「年間の人材育成計画」を積極的に織り込むべきです。人的資本経営という背景がある中で、それを否定する人はいないどころか、むしろ賞賛されるのではないでしょうか。
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