和太鼓や管楽器を電子化!? 創業51年目のローランドが挑む音楽市場のゲームチェンジ:ピコ太郎ブームの裏にローランドあり?(4/4 ページ)
2022年に創業50年を迎えたローランドでは、音楽や楽器の「ゲームチェンジ」を掲げ、その一環としてさまざまな楽器を開発している。果たしてどんな楽器として仕上がっているのか?
例えば、ローランドが1980〜82年の約2年間製造していたリズムマシン「TR‐808」とヒップホップ音楽やテクノ音楽との関係を見てみよう。
リズムマシンとは、ドラムやパーカッションなどの音色やリズムを設定し、自動演奏できるようにした電子楽器のこと。アーティストのピコ太郎がこのTR‐808を使った楽曲『ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)』を2016年にYouTubeで公開して全世界的に話題を呼んだ。同曲に使われているドラム音色への考察がテレビ番組でなされたことは、一般層が同機を認知するきっかけにもなった。
TR‐808は当初、できるだけ本物のドラムの音に近づける意識で開発したものだったという。しかし、結果として生ドラムには出せない、重く膨らんだような重低音が響くバスドラムや、乾いたハリのあるようなクラップ(手拍子)音、エッジの効いたシンバル音などが明確な特徴となって人気を博した。その後、エレキギターのひずんだ音を聴けばロックと結び付くように、TR‐808の音色自体がヒップホップやテクノといった電子音楽における、ある種のアイコンとしての立ち位置を確立するようになった。
今では各メーカーからTR‐808の音色をモチーフにした、クローン的な機材がリリースされている。約1万2000台しか生産されていない本物のTR‐808は、「実機が欲しい」という人々のニーズに押されて中古市場での価値が上がり続けており、おおむね70万円前後(当時の定価は15万円)で取引されているから驚きだ。このような文化的な価値からも同機は19年9月に国立科学博物館が選定する未来技術遺産に登録された。
「アシッドハウス」の裏にもローランドあり
機材とジャンルとの結び付きでは、TR‐808の他にも、その後継機となる「TR‐909」(83年)の功績も大きい。同機種によるリズムを再生したときの微細なズレは、ハウス音楽独特のノリやグルーブとして認識されるようになった。
また、リズムマシンならぬベースマシンの「TB‐303」(81年)については、本来の「ベースラインを打ち込んで再生する」という開発者側の意図をミュージシャンの側が飛び越え「ベースラインをループ再生しながら、音色を調整するためのツマミを動かし続ける」ことで、その時間的な音色変化をもって音楽表現に応用した結果、米国・シカゴで新たな音楽ジャンル「アシッドハウス」の成立に至った。このように、さまざまな音楽ジャンルが生まれた舞台裏には、ローランドの機器の存在があった。
22年に創業50年を迎えたローランド。電子楽器の雄としてさまざまな音楽ジャンルの発展に寄与してきただけでなく、昨今はゲームチェンジャー製品の投入による、音楽市場そのものの拡大にも挑んでいる。ローランドは今後、楽器業界や音楽そのものにどんな変化をもたらしていくのか、目が離せない。
なお、別記事『海外売上が9割 電子楽器の雄・ローランドが狙う次の一手』では、同社が中期経営計画で掲げている「ROLAND WILL BE THE WORLD LEADER IN MUSIC CREATION」というビジョンや同社の戦略についてゴードン・レイゾン社長へインタビューした内容をまとめている。ぜひ、こちらも読んでほしい。
著者プロフィール
長濱良起(ながはま よしき)
沖縄県在住のフリーランス記者。音楽・エンタメから政治経済まで幅広く取材。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、沖縄県内各企業のスポンサードで2年間世界一周。その後、琉球新報に4年間在籍。
2018年、北京に語学留学。同年から個人事務所「XY STUDIO」代表。記者業の他にTVディレクターとしても活動。
著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)がある。
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