バズワード化する「人的資本経営」 “もどき”で終わる残念なケース3選:働き方の見取り図(1/4 ページ)
「人的資本経営」という言葉が流行している。ジョブ型雇用やリスキリングなど、概念が曖昧なまま“バズワード化”している用語が多い。「看板倒れ」にならないために、企業にはどのような姿勢が求められるのか。
「人的資本経営」という言葉を耳にする機会が増えました。ただ「人を大切にする経営」という意味なのであれば、尊い概念ではあるものの目新しい訳ではありません。「当社は利益第一。社員を大切にはしません」などと公言する会社がないように、当然の取り組みという印象さえ受けます。
それなのに昨今、大手企業を中心に、あえて人的資本経営を掲げようとしている背景には、ESG投資への注目があります。財務情報のみならず、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)に配慮した投資活動のことを指し、人的資本はこのうちのSocialに該当することから、投資家向け情報として海外で開示義務化の動きが見られ、日本でも義務付けられることになりました。
また、2020年9月に発表された「人材版伊藤レポート」なども人的資本経営が重視されるきっかけになっています。ただ、いまはジョブ型雇用やリスキリング、キャリア自律など、重要なキーワードではあるものの概念が曖昧(あいまい)なまま“バズワード化”していると感じる雇用労働分野の用語が世の中に溢(あふ)れています。人的資本経営も、最先端感を求める会社がそんなバズワードに飛びついただけのようにも見えなくはありません。
そもそも「人的資本経営」とは?
経済産業省の公式Webサイトでは、人的資本経営について以下のように定義されています。
「人的資本経営とは、人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です」
かねてヒト・モノ・カネは経営資源の三大要素と言われており、人材が経営に欠かせない重要な要素であることは常々認識されてきました。ただ、この定義によると、人的資本経営は人材の価値をさらに積極的な位置付けで捉えているようです。また、人材版伊藤レポートには以下の解説が記されています。
「人材は、これまで『人的資源(Human Resource)』と捉えられることが多い。この表現は、『既に持っているものを使う、今あるものを消費する』ということを含意する」
この人的資源の解釈にならうと、人材とは消費の対象であり、コストと位置付けられるものです。一方、経産省の定義によると人材を「資本」として捉える人的資本経営は「中長期的な企業価値向上につなげる」ことを目的としています。つまり、人材をコストと見なすのではなく、価値を生み出すための投資対象と位置付けているのです。以上から整理すると、人材に投資して企業価値を向上させる取り組みが人的資本経営だということになります。
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