バズワード化する「人的資本経営」 “もどき”で終わる残念なケース3選:働き方の見取り図(2/4 ページ)
「人的資本経営」という言葉が流行している。ジョブ型雇用やリスキリングなど、概念が曖昧なまま“バズワード化”している用語が多い。「看板倒れ」にならないために、企業にはどのような姿勢が求められるのか。
ただ、言葉通りに実践するのは簡単ではありません。それは、財務体力が高い一部大手企業を除き、春闘や最低賃金の交渉が例年一筋縄ではいかないことや、物価上昇に比べて賃金水準の上昇が見劣りしていることなどからも分かります。もし世の中が、人材をコストではなく投資対象と見なしている会社ばかりであれば、賃金相場はもっと軽やかに上昇していくはずです。
人材をコストと見なしてきた会社が人的資本経営を機能させようとするならば、これまで自社が行ってきた経営スタイルを根底から転換させる覚悟が求められます。ただCHRO(最高人事責任者)という役職を設けたり、人材ポートフォリオを作成したりと、表面的にそれらしく形を整えるだけでは不十分です。
人的資本経営“もどき”3選
それなのに、人的資本経営という言葉がバズワードになって独り歩きすると、実態が伴わないにもかかわらず、流行に乗るために体裁だけ整えようとする“人的資本経営もどき”が次から次へと出現してしまう懸念があります。ケースを3つご紹介します。
1.戦略分断型
まず1つ目は、経営戦略と人材戦略が連動していない「戦略分断型」の人的資本経営もどきです。人材版伊藤レポートは、人的資本経営を実践するポイントとして3つの視点を示しています。
(1)経営戦略と人材戦略の連動
(2)As is(現在の姿)‐To be(目指すべき姿)ギャップの定量把握
(3)人材戦略の実行プロセスを通じた企業文化への定着
筆頭に掲げられているのが、経営戦略と人材戦略の連動です。もし、人材をコストではなく投資対象と見なして人材戦略を立てたとしても、それだけでは人的資本経営を行ったことになりません。人材戦略は経営戦略と連動して初めて効果が生まれ、企業価値の向上につながるものだからです。
例えば、未来に向けて投資するつもりでAI技術者の採用や育成などを人材戦略として掲げたとしても、AIを活用した事業構想が経営戦略の中に盛り込まれていなければ、せっかく人材を採用・育成できたとしても生かされることがなく、宝の持ち腐れで終わってしまいます。
2.戦略偽装型
次に、表向きそれらしい経営戦略と人材戦略を掲げ、人的資本経営を行っているかのように見せる「戦略偽装型」です。「当社にとって人材は宝だ。コストは考えず常に投資の対象と見なしている」と対外的にアピールし、Webサイトなどに掲げられている理念や方針にもたくさんの美辞麗句が並べられているものの、実態はうそ偽りだらけで、人を、売上利益を生み出すための道具としか思っていない質の悪い会社は残念ながら存在します。
人の目を欺(あざむ)くつもりで資料を整えて取り繕えば、第三者が内部監査でも行わない限り外部から見抜くことは極めて困難です。人材版伊藤レポートにある3つの視点に沿って確認したとしても、「人材戦略は経営戦略に基づいて行っている」「今年は新卒〇人、中途〇人など採用計画を立てて進捗(しんちょく)も確認している」「必要な人材を採用し、全社員に定期的に教育を行い、企業文化として浸透している」などという具合に、いかようにも説明できてしまいます。
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