バズワード化する「人的資本経営」 “もどき”で終わる残念なケース3選:働き方の見取り図(3/4 ページ)
「人的資本経営」という言葉が流行している。ジョブ型雇用やリスキリングなど、概念が曖昧なまま“バズワード化”している用語が多い。「看板倒れ」にならないために、企業にはどのような姿勢が求められるのか。
3.戦略倒れ型
最後3つ目は、経営戦略と人材戦略を連動させたとしても上手く機能しない「戦略倒れ型」です。例えば、AIを使った新規事業を起ち上げるという経営戦略に沿って、AI技術者を採用または育成するという人材戦略を立てていたとしても、何にどう取り組むかといった具体的な業務イメージが定まっていないとスムーズに進めることができません。また、採用・育成した人材に思う存分能力を発揮してもらうためには、役割に応じた権限を付与したり、十分なスペックのパソコンを設置したりするなど職場体制を整えることも必要です。
さらには、そもそも給与などの魅力的な条件を提示できなければ人材を採用することができず、もし採用できたとしても、入社後にエンゲージメント(engagement:積極的な貢献意欲)が下がってしまえば人材は定着しません。エンゲージメントを高めて会社と長く関わり続けたいと思ってもらうためには、組織自体が健全であることはもちろん、ワークライフバランスが取りやすい就業条件など働き手の希望に寄り添った環境整備が不可欠です。もしそれがかなわなければ、戦略倒れの人的資本経営もどきに終わってしまいます。
経営戦略を変えられないことが命取りに
以上、人的資本経営もどきに該当する3つのケースをご紹介しましたが、もっと根本的な原因によって人的資本経営が上手くいかない場合もあります。それは、経営戦略がそもそもなかったり、あったとしても市場環境とズレていたりする場合です。
経営戦略がないのは論外として、会社が過去の成功体験に縛られてしまっているような場合は、時代の変化に合った刷新ができないまま、当時の経営戦略に固執してしまう状況に陥りがちです。成功体験自体は大切な財産に違いありませんが、組織に急速な変化が求められている時に過去の経営戦略に固執していると、日に日に市場環境とのズレが大きくなっていきます。
テクノロジーの急激な進化や人口減少といった抗いようのない市場環境の大変革期において、これまでの経営戦略を見直さないままで済む会社は皆無に等しいはずです。そして、変革の幅が大きく急激であるほど、少し先の未来さえ正確に予測することが困難になります。
経営戦略とは未来を見越した上で定める会社運営の取り組み予定であり、本来ならばコロコロ変えてはならないものです。しかし、先が見通しづらい市場環境においては、変化に対して柔軟に経営戦略を変えられないことが命取りにさえなりえます。会社が想定していた市場環境がいつの間にか古くなっていることに気づかないままでいると、経営戦略に沿って頑張るほど、時代の流れとズレていってしまう悪循環に陥りかねません。
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