ペンギン池騒動と職場セクハラの共通項 笑いと非難の境界線はどこに:働き方の見取り図(2/4 ページ)
お笑いタレントが動物園のペンギン池に落下し物議をかもした。擁護する声がある一方、ネット上には「動物の尊厳を傷つける行為」「やっていることが回転ずし店での迷惑行為と変わらない」など厳しい言葉があふれた。自ら池などに落ちて笑いを誘うシーンは見慣れた光景でもあるはずなのに、今回の行為は一体何が問題だったのか。
どんなに面白い出来事であっても、誰かの不幸が連想されてしまうと素直に笑えなくなります。体を張って池に落ちた春日さん自身も大変だったと思いますが、自分たちの住処である池に突如巨体が落ちてきたペンギンたちは、命を脅かされるほどの強い恐怖を感じた可能性があります。それは、日々大切にペンギンたちを飼育している動物園にとっても迷惑な行為だったはずです。
また、テレビに映されたやりとりはMC加藤さんと春日さんの阿吽(あうん)の呼吸による芸だったに違いありませんが、視聴者の中には先輩のお笑いタレントである加藤さんの「気をつけろよ!」というフリが、後輩である春日さんに池に落ちろと強要している構図に見え、パワーハラスメントやイジメを連想した人もいたようです。実際には「後輩に笑いをとらせてあげたい」という加藤さんの愛情だったのだとしても、春日さんが不幸な存在に見えてしまうと視聴者は素直に笑えなくなってしまいます。
上島さんの「絶対に押すなよ!」が安心して笑えた理由
その点、上島さんが見せてくれた熱湯風呂のお約束は誰かの不幸を想像させることがないため、素直に笑うことができました。シチュエーションは似ていても、熱湯風呂にペンギンなどの動物はいませんし、風呂を用意したテレビ局側も上島さんが押されて入ることを想定しています。そして、上島さんのリアクションについて、
・本当は、後ろから押してほしいと思っている(でも、本気で嫌がってるように見せている)
・熱湯風呂は、ヤケドするほど熱くはない(でも、とても熱そうに見せている)
・熱いと怒りながら、人を楽しませようとしている(でも、本気で怒っているように見せている)
という名人芸だと視聴者も理解しています。
同じように過激な振る舞いでも、そこにひもづく形で誰かの不幸を連想させないことで、視聴者が安心して笑える芸は成立します。その心理は、安全性を確保し特別な訓練を積んでいると分かっているからこそ、ハラハラしながらも芸として観客がサーカスを楽しむことができるのと同じです。ところが逆に、そのシチュエーションが過激であればあるほど、誰かの不幸が連想されてしまうことで素直に笑えなくなるどころか不快にさえ感じることになります。
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