江ノ電の名物「12分ダイヤ」はなぜ終了したのか 70年も続いたのに:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)
「江ノ電」は、神奈川県の藤沢市と鎌倉市にまたがって走る電車だ。名物の1つに「12分ダイヤ」があり、70年以上も変わらず使われてきた。しかし2023年3月18日のダイヤ改正で、その伝統が終わった。江ノ電は14分間隔になった。伝統が終わった背景と、14分間隔になった理由を紹介する。
理由は「コロナ禍の乗客減」と「併用軌道」
70年間も維持し、地元の人々に「そうあるもの」と親しまれていたダイヤが変わる。利用者は戸惑うし、残念に思っただろう。しかし、それ以上に江ノ電で働く人々自身が悔しさを感じているはずだ。長い間の慣習を変えるには勇気がいる。それも自社の都合ではなく、外的要因だ。1つは「コロナ禍による利用客減少」、もう1つは「ダイヤ維持の限界」である。
「コロナ禍」については説明の必要もない。通勤、通学、買物、旅行、あらゆる移動需要が減った。もちろん鉄道の利用も減った。江ノ電は東京の通勤圏にある。そして勤務先から遠いほどリモートワークを選択する傾向がある。通学では自転車、生活移動ではマイカーに、密を避ける手段へシフトした。
鉄道会社としては、運賃収入が減るならば、経営努力として乗客を増やすか、経費を削減する。コロナ禍で前者の施策は取りづらい。そうなると経費削減、すなわち減便、あるいは減車となる。
減便は列車の運行本数を間引くこと。減車は列車の車両編成数を減らすこと。江ノ電は減便を選択した。というのも、2両編成が1単位。混雑時は2つ合わせて4両で運転している。大手私鉄のような10両編成を8両に減車すれば2割減だけど、4両を2両にしたら5割減。いくら何でも減らしすぎだ。そこで減便策となった。12分間隔ダイヤで1日当たり181本の列車が、14分間隔ダイヤでは154本になった。約15%の減少で、利用者数の低下とバランスを取った。
「ダイヤ維持の限界」は、もっと深刻な問題ともいえる。実はコロナ禍以前から江ノ電を悩ませてきた問題だ。せっかくキッチリと12分ダイヤを設定したけれども、ダイヤ通りの運行が難しくなっていた。
観光シーズンの乗客集中によって、乗降時間が増えて列車が遅れる。コロナ禍以前、大型連休中に乗車待ちの長い列ができて、1時間待ちとなる日もあったという。まるで遊園地の乗りもの並みの混雑だ。沿線住民も同じ列に並ぶと生活に支障が出る。そこで18年と19年には「沿線住民優先乗車」の社会実験が行われた。鎌倉市が発行する沿線住民証明書を提示すれば、駅の外の行列に並ばなくても駅に入れる。皮肉にも20年はコロナ禍となり、行列は消えた。
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