東芝はどこでしくじったのか 上場廃止と「物言う株主」排除が意味すること:過去を検証(6/6 ページ)
東芝が日本産業パートナーズからの買収提案を受け入れ、上場廃止に向けて動き出した。かつては日本を代表する企業だった同社は、一体どこでしくじったのか。中小企業診断士の視点で検証する。
「物言う『貸主』」との対話が必要
上場廃止後の問題は、金利負担の増加だ。朝日新聞は3月23日付の記事で、今回の買収資金は、国内企業17社による出資1兆円と、国内金融機関6社の融資1兆2000億円が原資となると報じている。銀行が融資する「1兆2000億円」は、最終的に東芝の負債となるため、金利負担の増加を招く。
金融機関は、着実な回収のため、東芝に経営監視や財務上のルール導入を求めている。業績が一定以上悪化した場合、事業や資産売却を求めることも視野に入れているという(2月9日NHKの報道)。「物言う株主」がいなくなった後、「物言う『貸主』」との対話が、東芝には求められる。
ウエスチングハウスのその後
東芝凋落の発端となったウエスチングハウスは、17年3月に経営破綻した。同社に関する損失が、東芝の有価証券報告書「ウエスチングハウスグループにおける原子力事業 経営成績」にまとめられている。これによると、損失額は「1.4兆円」(15・16年度累計)。東京五輪が、もう一度開催できそうなほどの巨額損失だったことが分かる。
その後、東芝が保有するウエスチングハウス関連債権9100億円は、およそ「7割引き」の2400億円で米資産運用会社に、保有株式は「1ドル」(実質無償)でカナダ投資ファンドに売却された。東芝のウエスチングハウスの資産問題に、ようやく決着がついたことになる。
一方、ウエスチングハウスを取り巻く状況は一変する。22年のウクライナ戦争によるエネルギー価格高騰で、原発が再評価され始めたのだ。そうした中、カナダのウラン採掘大手「カメコ」がウエスチングハウス買収を発表。買収額は「1.1兆円」としている。ウエスチングハウスに端を発した巨額赤字で、上場維持・廃止と迷走する東芝にとって、「痛恨の極み」といったところだろう。
結果論という強み
こうすべきだった。あれはやめておけばよかった。買収、粉飾、そして上場維持。全て結果論だ。東芝には、多くの結果論がある。上場廃止で得られるのは、それらを見直す時間だ。
東芝の現社長である島田太郎氏は自称「ビジョナリスト」。先の展開を考えるのが好きだという。先だけではなく、過去を見直してみるのも良いのではないだろうか。
書き手:関谷 信之(せきや・のぶゆき)
1964年生まれ。経営コンサルタント。「関谷中小企業診断士事務所」代表。
ソフトウェア会社で16年勤務し、システム開発や生産管理、経理などに従事。Webデザイン歴19年。中小企業診断士登録後は、企業診断を実施する傍ら、「bizSPA!フレッシュ」、言論プラットフォーム「アゴラ」などの媒体でビジネスライターとしても活動中。
Twitter:@kakanrilabo
公式Webサイト:「関谷中小企業診断士事務所」
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