「東急の自動運転バス」実証実験2回目、真の目的と課題が見えた:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
東急と東急バスが、3月に多摩田園都市エリアで自動運転バスの実証実験を行った。2回目の実験で、今回は新たなルート。一般試乗客を募り、LINEでの予約システムの実験も行われた。安心・安全を強化するため、車内外の遠隔監視システムの運用実験も行われたが、サービス提供にはまだ課題がある。
「多摩田園都市」の誇りと責任、それがあってこその奉仕
東急の自動運転バスの取り組みで、私が最も評価した部分は「路線バスでは行き届かない場所に導入する」という目標だ。将来のバス運転手不足に備えるという意味はもちろんあるけれども、路線バスを置き換えるという高望みはしていない。
駅前バスターミナルを発着したり、幹線道路を行く路線バスを置き換えるためには、煩雑な混合交通をクリアするための地上設備、専用レーン、法整備など課題が多い。極論すれば、安全、安心のためには、道路を行くすべてのクルマが自動運転になる必要もありそうだ。
しかし東急は違う。狙いは閑散道路であり「徒歩ではちょっとツライ」という距離をサポートする。なぜだろうか。
そのヒントが3月23日放送の『カンブリア宮殿』にあった。この放送もLINEアカウントで紹介されていた。現社長の高橋和夫氏は、停滞気味だったバス事業部に配属される。現状打開策として公共交通空白地帯だった渋谷〜代官山間に小型バス「東急トランセ」を運行した。この路線が年間20億円の利益を出し、年間10億円の赤字を出していたバス事業を立て直した。
渋谷と多摩田園都市、場所は違えど、鉄道空白地帯に小型バス路線という部分が共通している。実証実験のエリアはとても狭く、ほぼ同じ町内だ。筆者の自宅からたった500メートルしか離れていないけれども、実証実験のチラシは配布されなかった。東急に聞くと対象外だったという。
このくらいの狭い地域になると、同じ道路を通行するマイカーのドライバーも「同じ町内の人が利用するバス」と認識して、一層の思いやりを発揮するだろう。自動運転ではなくても成立しそうな取り組みでもある。ぜひ実現してほしいけれども、やはり運転手不足、整備士不足という課題がある。
2度目の実証実験が多摩田園都市で行われたことも重要だ。「たまたま東急の事業エリアに適した場所があった」という理由ではあるまい。多摩田園都市は高いブランド力で人気があるけれども、戦後の高度成長期から開発されただけあって住民の高齢化が深刻だ。アパートを取り壊し、土地を細分化して戸建ての分譲住宅に変わった土地がいくつもある。購入世代の死去、相続税などの都合かと推察される。
東急によると、沿線の人口は35年をピークに下降すると予測しているという。すでにピークを迎えた地域も多いなかで、35年という予測もすごいことだ。それでもいつか少子高齢化になる。そこで何が起きるかといえば、ニュータウン同士の人口獲得競争だ。
多摩田園都市の人気を維持するために、いまよりもっと住みやすい環境をつくらなくてはいけない。それは多摩田園都市をここまで開発した東急の誇りであり、これからも人口を維持する責任でもある。だからこそ住民に奉仕する手段を提供する必要がある。なぜなら、ライバルのニュータウンもそうだから。
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