「楽天モバイル」はなぜ苦戦しているのか 背景に4つの誤算:誤算の連鎖(4/5 ページ)
2022年12月期決算で、過去最大の3728億円の赤字を計上した楽天グループ。その要因はモバイル事業「楽天モバイル」だ。なぜ苦戦を強いられているのか。筆者が考える三木谷構想4つの誤算をひも解く。
楽天モバイルが求める「プラチナバンド」とは
3つ目の誤算は、「プラチナバンド」問題です。プラチナバンドとは、国内の電波利用において最も携帯電話がつながりやすい、700〜900MHzの周波数帯を指します。国内のプラチナバンドは3大キャリアに独占され、現在空きはありません。
後発の楽天に割り当てられた周波数は1.7GHzであり、屋外では大きな問題はないものの、先行3社に比べ室内での接続の悪さは利用者の知るところです。これを改善しない限り、基地局整備がすすんでも「つながりにくい」楽天は解消されず、利用者獲得の足は引っ張られ続けることになるのです。
そこで楽天は21年2月に「3社独占のプラチナバンドを公平に分けろ」と意見書を提出する形で総務省に嚙みつきました。さまざまな議論の末、総務省は22年11月にようやく3大キャリアの工事費負担で一部の電波領域を楽天に分け与える方針を打ち出しました。
ただ、この方針では実現までに5年がかかること、3大キャリアに大きな工事費負担が生じることなど、双方にデメリットがあり、ドコモが新たな案を提出。700MHz帯の3キャリア携帯電話帯と隣接の地上波テレビ帯などの間に存在する空き部分に、3MHz幅×2の携帯電話4Gシステムを導入する案です。改善を急ぎたい楽天は、いったん、これを受け入れる姿勢で動き出し、総務省もプラチナバンド再割り当てに向けた方向性を固めました。
一方、この案では、3MHz×2部分利用に向けた工事費用は楽天が負担することとなり、かつ3MHz×2は楽天が希望していた15MHz×2の5分の1の容量に過ぎません。今後、契約者数が増えた折には収容しきれなくなることが確実であり、プラチナバンド問題はこの先も楽天を悩まし続ける問題であることには変わりがないのです。
松本総務相、今秋の新規割り当て目指す方針
プラチナバンドでは最近になって、大きな動きがありました。総務省が未使用帯についての利用意向調査の結果を公表。楽天が、早期割り当てを要望しました。
松本剛明総務相は結果を受け、記者会見で「秋頃を目指し、手続きを進める」と明言。現時点で新規の割り当て先は決まっていないものの、「携帯市場の民主化」を掲げる楽天モバイルに割り当てが決まれば、エリア拡大に大きく前進することは間違いありません。それと同時に、そもそも楽天はこのプラチナバンド問題について事業参入前にはほとんど意識していなかったという見方もできるでしょう。この誤算は事前調査の甘さに起因するものであるといえそうです。
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