「楽天モバイル」はなぜ苦戦しているのか 背景に4つの誤算:誤算の連鎖(5/5 ページ)
2022年12月期決算で、過去最大の3728億円の赤字を計上した楽天グループ。その要因はモバイル事業「楽天モバイル」だ。なぜ苦戦を強いられているのか。筆者が考える三木谷構想4つの誤算をひも解く。
楽天銀行、東証プライムに上場 株式売却額は想定から300億円減
さて最後の4つ目の誤算は、最近加わった誤算です。楽天はモバイルの赤字によるキャッシュ不足を埋めるために、グループ企業である楽天銀行、楽天証券の株式上場によって、持ち株の一部売却による資金化を計画しています。
ところがウクライナ戦争による市況の低迷が続いており、昨秋を予定していた楽天銀行の上場は延期。4月21日に、東京証券取引所のプライム市場に新規上場しましたが、米国内でのシリコンバレー銀行破綻による金融不安が欧州にも飛び火するなどして、ますます市況の足を引っ張るような状況が続いているのです。
市況が低迷するとどうなるのかと言えば、新規上場する楽天銀行や楽天証券の株式公開価格が当初想定よりも下がるわけで、持ち株売却によって返済の必要がない資金をできる限り多く手にしたい楽天にとって、大きな誤算が生まれてしまうのです。
実際に先日公表された楽天銀行の公募・売り出し価格は1株1400円に決まりましたが、これは3月に上場承認を受けた際の想定条件を約3割近くも下回っています。売却総額では約300億円も減っており、基地局投資などの資金調達面で大きな誤算が生まれることになったのです。
結果論となりますが、このように誤算続きの楽天モバイルの事業は、モバイル事業をキーとした「楽天経済圏」確立による収益増大をもくんだ経営者三木谷社長自身の誤算でもあります。
同じIT系でキャリアの一角を担っているソフトバンクが、英ボーダフォンの日本法人を買収し、携帯電話事業に新規参入したケースと比較すると、そもそもゼロからのモバイル事業立ち上げは、ポッと出のネット企業には無理がありすぎたのではないでしょうか。
免許業務ゆえにやめようにもやめられず、国民資産である通信業務ゆえ勝手な事業売却もままならず。他3キャリアへの事業売却は独占禁止法に抵触する恐れがあり、公正取引委員会が許可するかどうか不透明です。
事業の特性上、外資企業への売却も安全保障上の懸念から難しいでしょうし、かと言って、ここまで赤字額が膨らんだ事業のため、日系企業の買収に期待するのも現実的ではないでしょう。
出口のない誤算の連鎖の中で、巨額投資を続けたモバイル事業にどう道筋をつけるのか。これまで時流に乗って名をはせてきた三木谷社長ですが、いよいよ経営者として本当の手腕が問われる局面に立たされたといえそうです。
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