「CX-60」好調のマツダ EV時代にエンジン車へこだわるのはなぜか:鈴木ケンイチ「自動車市場を読み解く」(4/4 ページ)
22年秋に発表された「CX-60」や、売れ行き好調な「ロードスター」を擁するマツダ。過去に何度も絶体絶命の状況に陥った同社の“七転び八起き”な歩みを振り返る。
挑戦することで成長してきたマツダの、次なる挑戦
この5チャネル体制を確立するため、80年代後半のマツダは次々と新型車を投入します。ユーノス・ロードスターを筆頭に、「アンフィニ・RX-7」、3ローターの「ユーノス・コスモ」、ガルウインドを持つ軽自動車「オートザム・AZ-1」、1.8リッターのV6エンジンを搭載する「ユーノス・プレッソ」など、個性派ぞろいでした。
ところがバブル崩壊により、日本は不景気に様変わり。3倍近い売り上げ増どころではありません。マツダの経営は大不振になり、93〜97年には5年連続の赤字となってしまいます。そこで96年から、マツダはフォード傘下となって、またしても再建の道を歩むことになったのです。
フォード傘下の一員としてマツダは、グループ内の各車へエンジンを供給するなどして、息を吹き返します。また、「デミオ」のヒットも助けとなりました。苦しい中、ロータリー・エンジンを搭載する「RX-8」も2003年に生まれます。
ところが、08年のリーマン・ショックにより、親会社のフォードが大打撃を受けました。その結果、マツダはフォードから独立することに。独立後の足元もおぼつかない11年には東北大震災が発生し、マツダは08年から11年まで4年連続で赤字に陥ってしまいました。
そんなマツダを救ったのは、次世代技術である「スカイアクティブ・テクノロジー」であり、「魂動」と呼ぶデザイン・コンセプト、そして「一括企画」と呼ぶモノ作り革新でした。そこから生まれた「CX-5」「CX-8」「マツダ3」はヒットして、現在のマツダの好調を支える土台となっています。
そして、さらなる飛躍のため、マツダは新しいラージ商品群を投入。その先駆けとなるのが昨年秋に登場したCX-60です。FRレイアウトの新しいプラットフォームだけでなく、新型の直列6気筒ディーゼル・エンジンまで新調しました。大きな投資を行いましたが、ヒットモデルとなれば十分なリターンが望めます。ただし、現在の自動車業界は「EVシフト」というのが大きなトレンドです。この先、エンジン車がなくなっていくと考えられる中、新型エンジンを開発することは、まさに挑戦といえるでしょう。
現在のCX-60による挑戦・好調は、過去の大失敗の直前の姿にもオーバーラップします。もちろん、そんなことは現在のマツダも承知のことでしょう。「過去とは違って、今回は成功を!」そんな気概で臨んでいることは間違いありません。
そもそもマツダは、挑戦することで成長してきたブランドといえます。厳しい目標、高い壁があるからこそ、ロータリーエンジンが生まれ、スカイアクティブ、魂動デザイン、一括企画が生まれました。そして、CX-60を筆頭とするラージ商品群は、これまでマツダが戦ったことのない高価格帯のクルマです。成功するには相当に高い壁を超える必要があります。だからこそ、ラージ商品群の成功を、そしてもう一つ大きくなった未来のマツダを期待するばかりです。
筆者プロフィール:鈴木ケンイチ
1966年9月生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく“深く”説明することをモットーにする。
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