“オワコン扱い”だったのになぜ? 三菱重工の決算が「絶好調」な理由:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
MRJの撤退を正式に発表したことで、三菱重工の株価は一時的に下落。ちまたでも「オワコンだ」などと厳しいレッテルを貼られていたが、蓋を開ければ決算は絶好調そのものだった。どういうことなのか?
MRJが産んだ新たなビジネス
付箋に欠かせない「貼って剥がせるのり」が、強力な接着剤の製作過程における失敗作から誕生したように、単体でみれば一見失敗したようにみえるビジネスであっても、そこから収益の基盤を生み出す例は決して少なくない。
MRJの失敗も例に洩れず、三菱重工業にとって、新たな門出を告げる契機となった。その経験から学んだ教訓は、事業のリスク管理と経営戦略の再構築に大いに役立ったのである。また、MRJ開発に関わった技術者の知識や経験は、他の航空宇宙関連事業に生かされている。
具体的には、MRJの経験が、航空機メーカーへのMRO事業の成長に大いに役立っている様子が決算からもうかがえる。そもそもMROとは「メンテナンス」「リペア」「オペレーション」の略称であり、製造業において整備やオーバーホールを担うビジネス用語である。
そんな同社のMRO事業が含まれる「航空エンジン」事業を確認すると、売上収益は前年同期の716億円から1265億円まで急成長しており、たった1年で76%も売り上げを伸ばしている。ガスタービンなどの他事業と比較するとまだまだ小粒ではあるが、事業として波に乗り出してからまだ日が浅いことを踏まえると、今後は航空エンジン事業も同社の収益の大部分を担うセグメントとして存在感を高めていくことになるだろう。
開発が始まった当初、三菱重工は、世界の航空機メーカーと肩を並べる存在になることを期待されていた。しかし、燃費の良さを追求した新型エンジンの開発遅延や、設計変更による生産ラインの停止など、さまざまな問題が起きたことで開発費の増加と、納入スケジュールの遅延を招き、最終的には撤退となってしまった。
しかし、そこで得られた知見は決して無駄ではなく、23年度もエアバスをはじめとした世界各国の大手民間航空会社向けのMROソリューションや工場拠点の拡充に乗り出している。
「MRJ」の困難は商業的な成功を阻んだだけでなく、三菱重工業の株価にも影響を与えた。特に、「MRJ」の開発が難航した15年以降、株価は一時的に3分の1以下にまで下落した。23年3月にMRJからの撤退が発表されると、一時的に売り込まれてしまったのだが、その後発表された好調な決算により、業績と足並みをそろえる形で株価も回復してきている。史上最高値である8000円台も十分圏内となる5400円まで戻してきた。
今年度は好調な航空機・ガスタービンに加え、岸田政権下で準備が進められる防衛分野においても三菱重工の存在感は一層高まってくることが予想される。そんな三菱重工を「オワコン」と断ずるのは早計であるといえるだろう。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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