信託型ストックオプション「最大55%課税」でスタートアップが悲鳴 抱えていた“2つの欠陥”:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/3 ページ)
スタートアップが優秀な人材獲得の一助にしている「信託型ストックオプション」。国税庁が原則として給与所得と見なすと発表したことで重税が懸念され、スタートアップが悲鳴を上げている。
「億万長者」という言葉から連想される職業といえば、スポーツ選手や芸能人、有名企業の経営者というイメージが強い。しかし、世の中には受付係やパートタイマーの従業員といった職種でも億万長者の座をつかんだ者がいる。
上記の例は、YouTubeやスターバックスコーヒーといった巨大企業の黎明(れいめい)期を支えていた従業員に付与されたストックオプションや株式報酬だ。日本では最近の事例で「にじさんじ」を運営するANYCOLOR(エニーカラー)の従業員の多くが株式報酬やストックオプションによって億万長者となった件が話題となった。
ストックオプションの「重税」が問題に?
黎明期の企業が役職員に十分な収入を約束できない中で、経営陣は現金の代わりに今の企業価値で自社株を購入することができる権利、つまり「ストックオプション」を支給していた。その後、仮に自社が上場して株価が大きく値上がったとしても、ストックオプションを行使すれば当時の安い株価で株式を購入できるため、その差額が報酬となるわけだ。
仮にその報酬が1億円として、それが現金で付与されてしまえば、日本の累進課税制度と合わせて最大55%もの所得税、住民税が課されることになる。しかし、日本における上場企業などの株式売買にかかる税金は20.315%であるため、「税制適格」と認定されたストックオプションによって換金した利益が1億円出たとしても2031万5000円の税金で済む。
しかし、近年スタートアップ企業において浸透しつつあった「信託型」と呼ばれるストックオプションについて、国税庁が原則として「給与所得」と見なすとの発表があった。多くの企業が信託型ストックオプションを導入しており、中にはすでに多額の売買益を得た者も存在する。
スタートアップ企業の報酬に重税がかかるとしたら、岸田政権の推進するスタートアップ支援とも逆行する結論にもなりかねず、一般企業においても株式報酬の導入に消極的となってしまう恐れがある。
そこで今回はかつて信託型ストックオプションを受けとった経験があるだけでなく、自社にもその制度を導入しようとして見送った筆者が、国税庁の言い分や見送るにあたって考慮した信託型ストックオプションの欠陥を踏まえて今回の事例を解説していきたい。
関連記事
- 建設業の倒産が急増している「3つの理由」とは?
帝国データバンク(東京都港区)は、建設業の倒産発生状況についての調査・分析結果を発表した。工期長期化・人手不足・資材高の3つの主な原因のため、2022年度は3年ぶりに倒産が増加した。倒産件数は21年度と比較して19%上昇した。 - 日本人の“働く幸福度”、世界最低に 調査で分かった「3つの理由」
パーソル総合研究所(東京都港区)は、18カ国・地域を対象に実施した「グローバル就業実態・成長意識調査−はたらくWell-beingの国際比較」の結果を発表した。日本は、調査対象国の中で、“働く幸福度”が最下位だった。 - スシロー、おとり広告で「信用失墜」し客離れ──それだけではない業績悪化のワケ
最近のスシローといえば、おとり広告の問題で景品表示法に係る措置命令を受けてしまった件は記憶に新しいことでしょう。こういった問題が起きるとどのような影響があるのかを「減損損失」という視点から見ていきます。 - 社長は「トヨダ」氏なのに、社名はなぜ「トヨタ」? “TOYODA”エンブレムが幻になった3つの理由
日本の自動車産業をけん引するトヨタ自動車。しかし、同社の豊田社長の名字の読み方は「トヨダ」と濁点が付く。なぜ、創業家の名字と社名が異なるのか? 経緯を調べると、そこには3つの理由があった。 - 「部下を育てられない管理職」と「プロの管理職」 両者を分ける“4つのスキル”とは?
日本企業はなぜ、「部下を育てられない管理職」を生み出してしまうのか。「部下を育てられない管理職」と「プロの管理職」を分ける“4つのスキル”とは? 転職市場で求められる優秀な管理職の特徴について解説する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.