信託型ストックオプション「最大55%課税」でスタートアップが悲鳴 抱えていた“2つの欠陥”:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)
スタートアップが優秀な人材獲得の一助にしている「信託型ストックオプション」。国税庁が原則として給与所得と見なすと発表したことで重税が懸念され、スタートアップが悲鳴を上げている。
後出しジャンケンができる?
まず、信託型ストックオプションを受け取る側から一言で表すと「後出しジャンケン」できる仕組みといえるだろう。そもそも信託型ストックオプションは、株価が安い時にまとめて発行し、それを信託に預けるという仕組みで、安い状態での発行分を後から役職員に付与できる。
通常のストックオプションは、発行時に付与対象を定めてその時の株価で発行される。このため、後から入ってきた役職員に発行しても、上場の直前期に入社した場合は十分な利益が得られない可能性がある。
しかし、信託型のストックオプションの場合は、役職員にストックオプションそのものではなく「ポイント」などを付与し、一定のタイミングでストックオプションとポイントを交換する。
そのため、後から入った役職員について、入社直後に大きなポイントを付与すれば、入社よりはるか昔に発行されたストックオプションを後から大量に持つことも不可能ではない。
これが「後出しジャンケンできる」といわれるゆえんだ。能力や知名度のある役職員は、潰れるかも分からない創業直後にわざわざリスクを取って入社しなくても、大金獲得のチャンスを得られる。
反対に、倒産などのリスクを背負って黎明期から入社していた役職員は、勝ち馬に乗ってくる役職員に付与されるストックオプションの分だけトータルの報酬量が削減されてしまう。利益相反関係が生じることになる。
株主や経営側からすれば、安い価格で発行したストックオプションを株式報酬として配布することで、エース級の人材のために多くの新株を発行せずに済むため、持株割合を大幅に希薄化させずとも人材の補強ができるメリットがある。他にも、ポイント量を調整することで会社の成長に追い付けなくなった人物に対するストックオプションの付与ペースを後から絞っていくことも可能だ。
そもそも税制適格ストックオプションは付与時の時価で算定されるため、役職員は「自分たちが入社することで企業を成長させなければ利益が得られない」というリスク・リターンが中立なインセンティブ報酬を念頭に置いた報酬形態だ。モチベーションアップにつながるとして、これまで導入が進んできた。
その反面、信託型ストックオプションは、役職員の入社後に会社が全く成長せず、逆に会社が傾いたとしても利益が得られる可能性すらあるという制度的欠陥を抱えている。この点への配慮がなければ、リスクに応じたリターンというインセンティブ報酬の趣旨と逆行する危険がある仕組みだった。
そんな信託ストックオプションには、国税庁が給与所得と認定することにも理があると言わざるを得ないもう1つの欠陥がある。
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