トヨタ新型「アルファード」と「ヴェルファイア」の正常進化:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
トヨタ自動車は、「アルヴェル」と呼ばれる人気の「アルファード」「ヴェルファイア」をフルモデルチェンジ。ミニバンの宿痾ともいえる2列目シートの振動問題が解決された。詳しく見ていこう。
歴代アルヴェルにあった明らかな欠点
さて、こうして、アルヴェルはトヨタの言う通り「快適な移動の幸せ」を体現したモデルとして1ジャンルを築いていった。広々として豪華な室内と押し出しの強い威風堂々とした外観を持つ乗用車。……なはずなのだが、アルヴェルには歴代共通の明らかな欠点があった。それは2列目シートの振動問題である。
ミニバンの代名詞と言えばスライドドアだが、このスライドドアこそがボディ剛性の天敵なのだ。ミニバンの左右スライドドアを開けて、真横から見ると理由が分かるだろう。2列目シートの部分には床板と天井しかない。
しかもその天井ギリギリまでが開口部。下はと見れば、乗降性のために可能な限り床板が薄く、低くしてある。しかも室内はウォークスルーが必須なので、センタートンネルも禁止。せめて足元に敷居を付ければ多少の改善も見込めるのだが、乗り降りでつまずくと言われれば、これもダメ。2列目付近、つまりBピラーとCピラーの間の剛性を上げる手段は八方塞がりで、これでボディ剛性が出るほうが不思議だ。
そして、困ったことに、実はスライドドアは素養として耐久性が低い。その耐久性を上げるためには、敷居の下に極太のスライドレールを入れるしかない。そうしないと経年劣化でドアが落ちるのだ。スライドドアの開閉軌道との兼ね合いで上下ともレールの位置は動かせない。
その結果、下側の極太スライドレールと競合する位置のフレームメンバーを細く、しかも内側に曲げて場所を譲らない限りパッケージが成立しない。言うまでもないが、フレームメンバーは車体の骨格そのものである。しかもすでに述べた通り、ボディを補強する代替案は全て使えない。この状態で車体の骨格を妥協したらそれはひどいことになる。
その結果、ミンバンとして巨大なエアボリュームが与えられ、ラグジュアリーな空間の中で最上級のおもてなしシートになるはずの2列目シートは、常にブルブルと震えることになる。エンジニアに聞けば、揺れの振動波はボディ左右方向だそうで、だからシートを固定する4本のボルトのうち、右か左の片側2本を外すと振動しなくなるのだという。
だが安全に関わるシートの固定をおろそかにする選択肢はない。要するに床板の振動をシートレールが拾ってシートごと一緒に震えているわけで、つまりは床板の剛性を高めて震えを元から断たない限りどうにもならない。
関連記事
- カッコいいなあと感じる国産車、2位「プリウス」、1位は?
利便性だけでなく、見た目も選択の決め手となるクルマ。全国の男女に「かっこいい国産車」を尋ねたところ、トップは……。 - なぜヘッドライトがまぶしく感じるクルマが増えているのか
夜間、クルマを走らせていて、対向車や後続車のヘッドライトがまぶしく感じることがある。その原因はどこにあるのか。大きくわけて3つあって……。 - なぜSUVは売れているのか 「しばらく人気が続く」これだけの理由
街中でSUVをよく見かけるようになった。各社からさまざまなクルマが登場しているが、なぜ人気を集めているのだろうか。EV全盛時代になっても、SUV人気は続くのだろうか。 - マツダCX-60は3.3Lもあるのに、なぜ驚異の燃費を叩き出すのか
マツダCX-60の販売状況が、なかなか好調のようだ。人気が高いのはディーゼルのマイルドハイブリッドと純ディーゼルで、どちらも3.3Lの直列6気筒エンジンを搭載している。それにしても、3.3Lもあるのに、なぜ燃費がよいのだろうか。 - なぜ人は「激安タイヤ」を買うのか アジアンタイヤの存在感が高まるリスク
アジアンタイヤが日本で存在感を増している。大きな理由として「安い」ことが挙げられる。しかし、本当にそれでいいのかというと……。 - 次の「新幹線」はどこか 計画をまとめると“本命”が見えてきた?
西九州新幹線開業、北陸新幹線敦賀延伸の開業時期が近づいている。そこで今回は、新幹線基本計画路線の現在の動きをまとめてみた。新幹線の構想は各県にあるが、計画は「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」として告示されている。これと費用便益比、各地のロビー活動の現状などから、今後を占ってみたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.