受け身の姿勢は時代遅れ! 人的資本経営をかじ取りする「攻めの人事」になる秘訣:会社全体で考える「人的資本」(1/3 ページ)
人的資本経営は経営者がリーダーシップを発揮して推進する必要があるが、そのパートナーとしての役割を担うのが人事部門だ。ところが、その役割を果たすためには多くの課題もある。人事部門は既存の業務に追われているのではないか。その業務に追われていては人的資本経営は進まない。
会社全体で考える「人的資本」
人的資本経営といっても、経営者、人事担当者、投資家など、立場によってその取り組み方、考え方は異なるものだ。本連載では、株式会社タナベコンサルティングのエグゼクティブパートナー 古田勝久氏が、それぞれの立場に立った取り組み方を解説する。
人的資本経営は経営者がリーダーシップを発揮して推進する必要があるが、そのパートナーとしての役割を担うのが人事部門であることは間違いない。ところが、その役割を果たすためには多くの課題もある。
筆者も人事部門での実務経験があるが、多く人事部門は、制度の設計・運用や給与計算、労務管理などのオペレーション業務に追われているのではないだろうか。もちろん、これら従来の人事機能・業務も重要である。しかし、その業務に追われていては人的資本経営は進まない。
人的資本経営を推進するためには、中長期的な視点から経営戦略に寄与する人事戦略を打ち出し、企業価値向上に貢献する「戦略人事」機能が必要だ。従来の人事機能が「守りの人事」だとすると、この戦略人事機能は「攻めの人事」といえる。
戦略パートナーとしての人事部門
人事の役割については、代表的な考えの一つに『MBAの人材戦略』で著名なミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授が提唱した考えがある。これを参考に定義したものが以下4つの機能である。
1、戦略パートナー:事業戦略に合致するように、人事の戦略や組織設計を行う機能。
2、管理のエキスパート:全社における人や組織に関する取りまとめを行い、法的リスクを最小限にし、業務の効率性を高める機能。
3、従業員のチャンピオン:従業員一人一人の声を聞き、従業員の意欲を高めるために、人事の戦略や組織設計を行う機能。
4、変革のエージェント:企業理念・バリュー・行動規範に合致するよう人事の戦略や組織設計を行う機能。
人事部門のメンバーは、これらの役割のいずれか(もしくは複数)をそれぞれが(もしくは1人が)担うことを期待されている。人的資本経営を推進するためには、特に「戦略パートナー」としての役割を発揮することが重要だ。
これまで、多くの経営者は人事部門のメンバーに対して、日頃のルーティン業務においていかにミスやエラーを少なくするか、制度設計・運用においても経営者・管理職・現場の潤滑油的に動ける調整力などを求めてきたのではないだろうか。また、人事部門もそのようなマインドセットになっていたのではないか。
ところが新型コロナウイルスの感染拡大により、事業継続のための人事施策を打ち出さなければならなくなった。社員を出社させない、人と接触させない状況でも事業を継続するために打ち出す人事施策そのものが、企業の存続を左右する重要なファクターとなった。さらに、企業価値を高めるための人的資本経営の推進という「外圧」により、人事施策の戦略性がより強く求められるようになった。
このようにして、人事部門は「戦略パートナー」としての役割を求められるようになり、人事部門もこの役割を果たさなければならないとマインドセットし直すことが重要だ。
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