受け身の姿勢は時代遅れ! 人的資本経営をかじ取りする「攻めの人事」になる秘訣:会社全体で考える「人的資本」(3/3 ページ)
人的資本経営は経営者がリーダーシップを発揮して推進する必要があるが、そのパートナーとしての役割を担うのが人事部門だ。ところが、その役割を果たすためには多くの課題もある。人事部門は既存の業務に追われているのではないか。その業務に追われていては人的資本経営は進まない。
DXで人的資本経営を推進する
人的資本経営では、さまざまなデータを活用して人的資本の情報開示を進めていく。人事部門は、定着率や満足度調査の結果などさまざまなデータを把握しているはず。これらのデータを「データベース」として活用できるように整備していくことが必要だ。そのためにHR領域のDXに取り組んでほしい。
HR領域におけるDXとは「社員に関する情報をデータ化し、一元管理することで戦略的な人材配置や育成・採用などを実現すること」である。単なる業務のデジタル化にとどまらず、人材の活用方法そのものを変革(トランスフォーメーション)するという考え方が正しい。
あわせて「ピープルアナリティクス」もおさえておきたい。ピープルアナリティクスとは、従業員の属性データ(年齢や性別など)や行動データを収集・分析し、採用活動や従業員満足度の向上など、人事領域におけるさまざまな施策の実行や意思決定に生かす手法である。マーケティングの現場においてはすでに取り組みが加速しているが、HR領域においてもデータを活用し、人事担当者の経験や勘だけに依存しない戦略的な意思決定で、従業員一人一人の適性に基づいた精度の高い人材配置・育成・採用を実現しようという流れが加速している。
HR領域のDXを実現するための土台として、ピープルアナリティクスを含める人事部門内に人材情報のデータを蓄積していくためのサービス・ツールの導入・活用を進めていただきたい。
しかし、サービス・ツールを導入したものの、うまく活用が進まないと課題を感じている読者も多いのではないか。その原因として、筆者は「競争力を高めるために人的資本をどのように活用していくか」を定める「人材マネジメント方針」が不明確なまま導入していることに原因があると考えている。
人材マネジメント方針とは、自社の経営戦略の目標を達成するために今後必要になる人材の質や量を定義し、採用・育成計画などを短期・中長期で策定していくこと。人材採用や育成・配置などについて意思決定する際には、生産性や労働時間、要員数、求められるスキルを持った人材の数などの「定量的な根拠」が必要だ。そこで、HRテックによるデータ活用が有効となる。定量的な根拠を基に人材マネジメント方針を立案することで、タイムリーなモニタリングと計画の見直しを行うことができる。
この定量的な根拠こそ、人事KPI(重要業績評価指標)である。各社のビジネスモデルや組織の状況に応じて適切に人事KPIを設定することで、人材マネジメントのプロセス管理をスムーズに実現できる。
部門の価値を高め、人的資本経営の推進役としての役割を果たす
近年、ESG投資や非財務情報への関心の高まりなどを受けて、人的資本の開示に取り組む企業も増えてきている。しかし、これらの取り組みを通じて人的資本経営に必要なデータを人事部門が把握できるようになっても、「自社はまだまだ他社と比べて対応できていないことが多いから情報を公開できない」などの声が出てくることも想定される。最悪の場合「公開をやめておこう」という本末転倒な事態にもなりかねない。
こういう時こそ、人事部門が人的資本経営のかじ取り役として、経営者や事業部門との対話を行ってほしい。そのような行動が人事部門の価値を高め、人的資本経営の推進役としての役割を果たせると考えられる。人事部門がその覚悟を持つことが重要だ。
著者プロフィール
古田勝久(株式会社タナベコンサルティング エグゼクティブパートナー)
自動車部品メーカー、食品メーカーの人事部門にて採用・人材育成・人事労務業務を経て、タナベコンサルティングへ入社。
現場で培ったノウハウをもとに、戦略的な人事・組織の実現に向けて経営的視点からアプローチし、大企業・中堅企業の成長を数多く支援している。
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