「電動キックボード」の問題は何か メリットとリスクを考える:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
7月1日から、電動キックボードの新ルールが適用された。最寄駅からのラストワンマイルを快適に移動する新たなモビリティとして期待されているが……。
期待するからこそ、願うこと
とりあえず決まったルールではあるが、まだまだ過渡期であり、積み残しの問題があると筆者は考えている。速度を上げるならばさまざまの規制を厳しくするしかないが、電動アシスト自転車や原付一種などより高速での安全性が高い選択肢が既にある中で、それらと競合する領域に踏み出す必要が本当にあるのかと考えるとどうもすっきりしない。
だったら、これまでなかった歩行領域の移動手段として、時速6キロ以下に規制する代わりに、規制緩和を進めて、もっと気軽で自由に使える乗り物にしたほうが有意義なのではないかと考えている。単純な話、オシャレな人はヘルメットで髪型が崩れるのは嫌だろう。ヘルメットがないメリットは明らかにあるが、それで安全に走れる速度は小走りレベル。つまり時速6キロ程度だと思うのだ。
おそらく、今後電動キックボードの事故はそれなりに発生するだろうし、今のメディアのあり方を見ると、それを鬼の首を取ったように報道するだろう。それが分かっていながら速度上限を上げたことで、この先、電動キックボード自体が危険な乗り物のレッテルを貼られて、ムーブメントにブレーキが発生してしまう可能性を一番案ずるのだ。その時の議論を今から先回りして言うのもなんだが、構造上の安定特性から、速度を出すことが不得意な電動キックボードを、車道の混合交通に混ぜるのがおかしい。
一般道の法定速度は時速60キロだ。本来そこを走れるようにするには時速60キロが出せないと厳しいが、そんな速度は危なくて出せないので近づけるための20キロなのだろう。しかしそういうモビリティは電動アシストサイクルに任せれば良いではないか。電動アシストサイクルより簡便なモビリティであるためには、車道走行を諦めて歩道専用のモビリティにするほうが良い。例えば3輪にしてでも時速6キロで安定して走れ、買い物の荷物くらい積める構造にすればずっと可能性が広がると思う。
繰り返すが、筆者は電動キックボードが開くラストワンマイルのモビリティに期待を持っている。だからこそ悪評などに留意して、うまく普及させていく方策はないものかと思っている。とりあえず走り出してしまった規制なので、事故報道が必要以上に過熱しないことを願うばかりである。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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