それでも沖縄に鉄道をつくってあげたい 「ゆいれーる」で効果は証明:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)
ホノルルで鉄道路線「スカイライン」が開業した。かつてハワイには鉄道があったが廃止され、現在は自動車の交通渋滞が深刻なことから鉄道路線が復活した。鉄道終了、深刻な交通渋滞、観光産業中心の3点がよく似た島が沖縄本島だ。日本政府は沖縄本島に、モノレールとは別に鉄道を建設すべきと考えた。
日本政府の鉄道計画を沖縄県がいったん拒否したが……
モノレールとは別に、日本政府は沖縄本島に鉄道を建設すべきと考えていた。02年に政府が策定した沖縄振興計画によると、「農林水産業の振興」として「共同出荷場、水産物卸売市場等の各種流通施設の整備・再配置による県内物流の効率化を促進するとともに、生鮮品等の高品質保持流通システムを構築するほか、船舶・鉄道等を活用した輸送コストの低減対策を推進する」と鉄道の活用が明記された。鉄道の用途は貨物輸送であり、生産地と市場を結ぶだけかもしれない。
05年(平成17年)、政府与党は沖縄振興政策案の目玉として、那覇〜名護間の鉄道建設を提案した。沖縄県北部の観光支援が目的だった。さらに10年(平成22年)度の沖縄振興予算として3000万円を計上する。一般的な鉄道とLRT(次世代型路面電車システム)を検討した。
当時、沖縄県は鉄軌道に消極的で、10年(平成22年)7月に事業化は難しいという見解を示した。私見だが「鉄道をつくってくれるのはありがたい。しかし赤字の案件を押しつけられては困る」と考えたのではないか。その後も政府は鉄軌道調査を進めて、11年(平成23年)6月に需要予測結果を発表した。ただし、12年(平成24年)6月の政府発表は「検討中の全てのルートが赤字」だった。
一方、13年(平成25年)に沖縄県は鉄軌道推進にかじを切る。「鉄軌道を含む新たな公共交通システム導入促進について」という文書を公表した。公設民営方式(上下分離)とすれば、運行会社は単年度黒字になるという積極案だ。実は10年に、共同通信社などが沖縄県知事と全41市町村にアンケートをとったところ、7割が「沖縄本島で鉄道やLRTを導入すべきだ」と回答していた。
沖縄県の経緯はちょうど10年前に私の記事で詳しく紹介している。私の意見は「鉄道計画は良しとして、全区間の7割がトンネルとはいただけない。観光需要を考慮して明かり区間を増やしてほしい」だった。
【関連記事】トンネルだらけの沖縄新鉄道案は魅力に乏しい(13年6月14日の杉山淳一の時事日想)
それから10年。沖縄県鉄軌道はどうなったか。政府も沖縄県も、なんとか鉄道をつくろうとしているけれど、費用便益比(B/C)が建設の指針となる1.0に満たないため、建設に至らない。
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