「バス共同経営」の熊本県でMaaSアプリサービス開始 まるで公共交通問題のデパートだ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/6 ページ)
前回、ドイツ発祥の公共交通施策「運輸連合」と熊本県における路線バス「共同経営推進室」を紹介した。その後、熊本県はMaaSアプリ「my route」のサービスを開始すると発表。熊本市が先行したけれども、時を置かず他の都市でも同様の計画が立ち上がっていた。
前回の記事で、ドイツ発祥の公共交通施策「運輸連合」と熊本県における路線バス「共同経営推進室」を紹介した。その後、熊本県は1月27日にスマートフォン用のMaaSアプリ「my route」のサービスを開始すると発表した。熊本県の公共交通がどんどん便利になっていく。
「運輸連合」は、地域の公共交通事業者が出資し協業する組織。発祥はドイツだ。1960年代のマイカー普及でバス事業者が困窮し、バス会社間の競争をやめて、互いに手を取り存続のために連携した。運輸連合は有限会社の形態が多いようだ。
運輸連合に参加した交通事業者は、バスやLRTの運行計画を調整し、乗り継ぎを便利にした上で車両の運用を効率化する。利用者から預かった運賃はいったん「運輸連合」に集約され、参加各社に公平に分配される。利用者から見ると運輸連合全体で1つの会社に見える。利用者にとって「運行する事業者が何か」という情報は関係ないからだ。
日本において、地域のバス会社同士の協業は禁止されていた。バス会社が共同して運賃を決める、もしくは運行調整するという行為はカルテルと見なされ、独占禁止法で禁じられたからだ。しかし、少子高齢化や新型コロナウイルス感染症の影響でバス路線の存続が難しくなってきたため、2020年5月の独占禁止法特例法(*)の施行によって、バスはその対象から除外可能になった。
(*)正式名は「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律」
法律の制定を受けて、熊本県の路線バス運行会社は「熊本地域乗合バス事業共同経営計画」を策定した。人気区間に集中するバス路線を統合整理し、余剰となったバスや乗務員を閑散区間に振り向けて交通サービスを維持した。現在はバスIC共通定期券サービスを導入し、複数社が乗り入れる区間でどのバスにも乗れるようにしている。
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