それでも沖縄に鉄道をつくってあげたい 「ゆいれーる」で効果は証明:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
ホノルルで鉄道路線「スカイライン」が開業した。かつてハワイには鉄道があったが廃止され、現在は自動車の交通渋滞が深刻なことから鉄道路線が復活した。鉄道終了、深刻な交通渋滞、観光産業中心の3点がよく似た島が沖縄本島だ。日本政府は沖縄本島に、モノレールとは別に鉄道を建設すべきと考えた。
政府案の検討結果
政府も沖縄鉄軌道計画をあきらめていなかった。11年(平成23年)度調査において検討していたルートが全て赤字となったけれども、課題解決のために引き続き「コスト縮減方策、需要喚起方策、整備効果を計測するための手法等」を検討した。
12年(平成24年)度は「幹線区間の一部単線化」「鉄輪式リニア方式」「施設の簡素化」「沖縄自動車道ルートを取り下げ、鉄軌道駅と沖縄自動車道の結節輪を検討」「国道58号高架、米基地跡地に専用軌道、トラムトレイン(軌道と鉄道の複合型)」について検討した。
トラムトレインは市街地で併用軌道(路面電車)、郊外で専用軌道(鉄道)とする方式で、日本では広島電鉄の市内線と宮島線の直通電車(2号線)が似ている。ただし海外のトラムトレインは専用軌道区間で最高速度が時速80キロメートル以上という路線もあり、路面電車より速い。沖縄鉄軌道が想定するトラムトレインは専用軌道でJR在来線並みの最高速度で時速80〜100キロメートルになると考えられる。これでも費用便益比は0.38〜0.60にとどまった。
13年(平成25年)度は前年の検討に加えて「SENS工法」「単線区間拡大」「全線単線化」「駅数の削減」「スマート・リニアメトロ(鉄輪式リニアの高速版)」「山岳トンネルを地平線に変更」「地下トンネルを高架に変更」とした。費用便益比は0.36〜0.83であった。
14年(平成26年)度はさらにトンネル区間を減らし、「バッテリーを搭載したハイブリッド車両」「ドライバーレス運転」を採用してランニングコストの削減を検討した。また県民や県外来訪者にアンケートを実施して利用意向を精査した。「海が見える時間があると鉄軌道を選択する傾向」も盛り込まれ、10年前に私が指摘した「海が見えないと観光客にとって魅力がない」が裏付けられた。費用便益比は0.49〜0.84であった。
これ以降も毎年の調査を続けており、ルート、トンネル工法、支線の追加による需要喚起、駅舎の小型化、CBTC(無線式自動列車制御装置)などのコスト削減を検討した。また、土砂災害、津波対策などの安全コストを加味している。
23年6月27日に、22年(令和4年)度の調査結果が発表された。費用便益比は小型鉄道の場合が0.66、小型AGT(新交通システム)の場合が0.70、HSST(磁気浮上式)の場合が0.74、スマート・リニアメトロの場合が0.80、トラムトレインが0.91となり、ようやく1に近づいた。ただし、トラムトレインは政府案の本命ではない。市街地で速度が遅く、自動車交通に影響するためだ。所要時間短縮は重要で、コストが低ければいいという問題ではない。
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