それでも沖縄に鉄道をつくってあげたい 「ゆいれーる」で効果は証明:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
ホノルルで鉄道路線「スカイライン」が開業した。かつてハワイには鉄道があったが廃止され、現在は自動車の交通渋滞が深刻なことから鉄道路線が復活した。鉄道終了、深刻な交通渋滞、観光産業中心の3点がよく似た島が沖縄本島だ。日本政府は沖縄本島に、モノレールとは別に鉄道を建設すべきと考えた。
それでも日本政府は沖縄に鉄道をつくってあげたい
現状ではスマート・リニアメトロが最有力。しかし費用便益比は0.80で1.00には遠い。しかし確実に1に近づいている。最新の調査では、既存の補助金政策のほかに「全国新幹線鉄道整備法」と同じ枠組みを使えないかという検討も行われた。
新幹線建設の建設費負担は、JRが50%、国が35%、地方が15%だった。地方負担分は9割が地方債の新規発行でまかなえることとした。JRの50%は、JRが開業済みの新幹線の線路使用料として支払う費用をあてる。1996年に見直しが行われ、国が3分の2、地方が3分の1、JRが赤字にならない程度の貸付料を負担する。地方が財源として発行する地方債は国が地方交付税で補てんする。また、国の負担分には、整備新幹線以前の新幹線をJRに譲渡(売却)した代金が当てられる。ややこしいけれど、整備新幹線の建設費用を捻出する苦肉の策だ。
このやり方に似た枠組みを沖縄鉄軌道でつくれないか。国が3分の2、地方が3分の1、運行会社が利益の一部を還元する。ただし、国の負担分の中で、新幹線ではないものに既存新幹線の売却代金を使うとなれば趣旨が違う。だから整備新幹線とまったく同じ法律のなかでは組み入れられない。新しい法律が必要で、国の負担分の財源をどうするかという課題が残る。そもそも費用便益比が1.0未満では始まらない。
しかし、こうしたアイデアが出てくるということは、国がどうにかして沖縄に鉄道をつくってあげたいという気持ちの表れだと思う。戦後は国が鉄道を計画し、いったん沖縄県が拒否。10年前に沖縄県が示した単年度黒字の構想に対して、政府がその見通しを否定するかのように赤字の資産を突きつけた。
あの時は、「政府が沖縄に対して鉄道をあきらめさせようとしている」と感じた。しかし毎年の調査を見れば逆だ。国は沖縄に鉄道をつくりたい。だからなんとしてでも費用便益比で1.0をクリアしたいわけだ。
ホノルル市のスカイライン計画は05年から動き出した。もしかしたら03年のゆいレール開業と好業績が影響を与えたとはいい過ぎだろうか。そしてホノルル市が最初にやったことは交通政策のために消費税を加算することだった。ホノルルを参考にするならば、沖縄県が鉄軌道の財源とするための目的税を創設する方法もあるだろう。31年のスカイラインの全線開業と好業績は、沖縄鉄軌道の実現を後押ししてくれるかもしれない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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