なぜ「AFURI」は炎上したのか 商標権めぐる主張で重ねた「悪手」:本田雅一の時事想々(3/5 ページ)
「AFURI」をめぐる商標権争いが、係争相手の吉川醸造によって表面化し、炎上している。ネットでは、商標権を保有するAFURIへの批判的な意見が多い。なぜ、AFURIは当たり前の権利を主張しているのに炎上したのか。
重ねてしまった悪手
筆者はこの係争そのものについての意見を述べる立場にはないが、消費者は知財管理上の正当性よりも、ブランドの背景にあるストーリーに共感する傾向が強く、それが今回の炎上につながっていると考えている。
吉川醸造のニュースリリースは、事実関係の一部に関して公開しつつも、読み手の感情を刺激するよう書いている。例えば
AFURI社の著名性にフリーライドしその商標権を侵害するものであり、商品を全て廃棄処分すること等を要求するものでした
「雨降(あふり)」銘柄は、丹沢大山の古名「あめふり(あふり)山」と、酒造の神を祀る近隣の大山阿夫利神社(以下「阿夫利神社」といいます)にちなんで命名したものであり、ラベル「雨降」の文字も阿夫利神社の神職に揮毫していただいたものです」
伊勢原市の施設にAFURI社に対する商標関連の苦情文が届いたと聞いたこと、また最近では「あふり」に関する名称を持つ事業を営む地元企業の代表からも不安を打ち明けられた
といった記載は商標権の帰属先を示す情報ではなく、この文章の読み手自身に訴えかける感情的な文章だ。それゆえ、SNSでAFURIに対して批判的な意見が集まったのは致し方ないところだろう。
こうしたSNSでの反応に油を注いでしまったのはAFURI側だった。AFURI創業者で代表取締役の中村比呂人氏は、企業として公式のニュースリリースを出す前に、Facebookで次のような問いかけを行った。
吉川醸造が感情を全面に出したニュースリリースを出したのは、そう感じて欲しいからだったのだろう。そしてAFURIが出した声明が“抑制的”だったのは、事態の沈静化を狙う目的があったのだと考えられる。ところが、会社としてのAFURIの抑制的な方針とは異なり、中村氏は(本当の気持ちなのだろうが)自分自身の考えを感情的な表現で並べてしまった。
いずれも事実ではあるのだろうが、付いているコメントを見る限り、逆効果だったように見える。さらに中村氏はニュースサイト「NewsPicks」が運営するYouTubeチャンネルで、個人的な思いや感想、解釈についてコメントしてしまった。
本来ならば2社間の知財に関する係争であるにもかかわらず、一般消費者の関心を巻き込んで「感情的に許せるか否か」の議論に自ら身を投じてしまった。
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