増える「交通の空白地帯」どう解決する? JR津軽線の“断線”救ったベンチャーに聞く:「地元ルール」はDXできるか(1/2 ページ)
青森県、秋田県を集中的に襲った豪雨災害の影響で、青森県津軽半島を走るJR津軽線の一部区間が断線する被害が起きた。そんな状況を救うべく貢献した企業の一つが、電脳交通というスタートアップだ。地方のタクシー会社の厳しい現実やDXの可能性について、同社取締役COOの北島昇氏に聞く。
2022年8月9日、青森県、秋田県を集中的に襲った豪雨災害の影響で、青森県津軽半島を走るJR津軽線の一部区間が断線する被害が起きた。
交通の「空白地帯」となってしまった同区間は、偶然にもある実証実験を行っていた。JR東日本、地元の観光会社らが連携し、地域住民や観光客のために乗り合いタクシーを運行するというものだ。その乗り合いタクシーの配車システムを提供しているのが、電脳交通(徳島市)というスタートアップ企業だ。
実証実験は22年9月に終了する予定だったのだが、急きょ予定を変更し、現在も「わんタク」による振り替え輸送を実施している。実験段階だった事業が事実上「社会実装」される形となった。
電脳交通の配車システムは45都道府県、約500社へと導入実績を拡大している。出資者には三菱商事やJR東日本グループの「JR東日本スタートアップ」など、大手企業も名を連ねる。
地方のタクシー会社の厳しい現実やDXの可能性について、同社取締役COOの北島昇氏に聞いた。
「あの鉄橋に停めて」「……どこですか?」 地元ルールをDXできるのか
タクシー業界の抱える問題は、都市部と地方部とでは大きく事情が異なる。都市部でタクシーをつかまえるとき、街中を走るタクシーを呼び止めたり、駅前のタクシー乗り場に向かうのが一般的だろう。加えて、近年では配車アプリを使って手配することも当たり前になった。一方で地方はそもそもタクシーが少ないため、タクシー会社の配車センターに電話をかけるのが今でも主流である。
地場のタクシー会社の配車管理は古くなった自社システムを用いているか、ベテラン社員の「職人芸」でさばいているのが現実である。
加えて、地方タクシー会社の配車管理業務には、複雑な暗黙のルールが多く存在する。そのルールを熟知したベテランの職員が1時間に数十件もの配車をさばくという、かなり属人化された世界だ。
「利用客の一番近くを走るタクシーを機械的にマッチングすればいいではないか、と思うかもしれませんが、そう単純ではありません。配車センターのオペレーターは、タクシードライバー同士の人間関係や、稼働実績の平準化など、いくつもの要素や『配慮』を加味しながら配車しています」(北島氏)
「ローカルな地名の呼び名」もシステム化しにくい要素だ。地域住民の間では旧地名をいまだに使用していたり、「あの鉄橋で停めて」というアバウトな要望など、長くその地域で働かないと身に付かない知識がある。
ベテラン社員が退職してしまったら代わりはいないし、自社システムを更新するには数千万円単位のコストが発生することもあるため、こちらもなかなか手が出せない。そんな現状に対して、電脳交通の配車システムはクラウドで提供しており、初期費用のコストを抑えられる。
会社ごとにさまざまな独自ルールをシステム上で再現できるよう、多くの調整項目を持っている点にも特徴がある。
例えば「ローカルな地名問題」については、システム上の地図に“付せん”を貼るように配車担当者がメモを貼り付けられる。ベテラン社員の知識をシステム上に蓄積すれば、属人的な業務も標準化できるというわけだ。そうすることで、地場のタクシー会社の配車業務を、遠隔地のオペレーションセンターから対応できるようにもなる。
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