北斗の拳、ジョジョ、刃牙――「古典作品アニメ」が令和になって連発するワケ:エンタメ×ビジネスを科学する(2/2 ページ)
『北斗の拳』『ジョジョの奇妙な冒険』『グラップラー刃牙』といった作品はなぜ、令和の時代に再び脚光を浴びているのだろうか。これについて考察してみると、時代の変化がもたらした功罪が浮かび上がってくる。
やみくもなリメークはリスクになる
では、なぜこれら80-90年代の作品がリメークされるのか。一つの要因としては、かつて時間的・技術的に厳しい制約の中で製作したアニメ作品を、周年記念などをきっかけに「現在の技術でもう一度作ろう」というマインドが関係者間で働いたと考えられる。
作品がすでに完結していることと、毎週のテレビ放送というスケジュールの制約がないことは、アニメ制作側にとって時間的なコントロールをしやすい環境だといえる。
もう一つの要因としては、古典作品を楽しんだ層が40〜50代になり、アニメ制作側内部における中心的な世代になってきたこともあるだろう。子どもから成年の過程で触れたこれらの名作たちをきっかけに、業界へ飛び込んだ人も少なくないはずだ。
また、消費者側でも市場を後押ししやすい年代である。自分の子どもや孫と思い出の作品について共感したいという欲求もあるだろう。関連グッズの購入などへの消費活動につながる可能性も期待できる。
このように、コアなファンを持つ80〜90年代作品のアニメ化は、技術的な進歩や媒体の変化もあり、それらに対応した上で消費者ニーズに応えることで、令和の時代にも新たな魅力を発揮しているのである。
ただ、やみくもにリメークすればよいというものではない。この種のリメーク作品で重要とされるのが、クオリティーと原作漫画へのリスペクトである。名作であるが故にファンの目は肥えており、原作へのこだわりや愛も強い。このようなコアなファンの目を満足させられるクオリティーを実現した上で、新規層にも響く作品になっているかが鍵である。
例えばジョジョの奇妙な冒険は、原作の独特な色彩や構図・タッチや、独特のせりふ回しをも含め忠実に映像化することで、作品の世界観や雰囲気を愛する多くのファンの評価を得た。また、これらの古典アニメのリメーク作品における一つの極致といえるのが、映画『THE FIRST SLAM DUNK』であろう。井上雄彦氏自らが監督と脚本を務めたこの作品について、鑑賞した方ならご理解いただけるだろう。
古典作品のアニメ化は過去のファンたちをもう一度活性化させる意味でも、また新たなファンを獲得する意味でも非常に有効な手段といえる。ただし、単に過去の名作を再利用するということではなく、現代の技術や消費者ニーズに合わせ新たな価値を創造することが重要であり、そのためには原作への敬意や理解を持ちつつ新しい視点や工夫を加えるという非常に困難な作業が必要となる。
昭和の時代から語り継がれる名作には、令和の時代においてもまだ多くの可能性を秘めており 、古典名作の再アニメ化は今後も注目すべき動向である。
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