外資の営業は10年前からAI活用 なぜ日本企業の多くはいまだに「蚊帳の外」なのか:元・外資営業役員が語る(3/4 ページ)
外資企業では、10年以上前から営業活動において簡単な業務であればAIを活用してきた。なぜ日本企業ではいまだにAI活用が進まないのだろうか? 元SAPジャパンの営業役員に日本の課題とポテンシャルを聞いた。
日本企業における業務自動化の可能性は?
村尾: 先行事例として、当社クライアントであるTOPPANデジタル様では、新規事業のSaaS商材を販売するセールス組織で業務自動化が進んでいます。セールスオペレーションを設計する段階から「マーケティング、セールス、カスタマーサクセスでの全体最適」を構想として掲げて効率向上を推進されています。通常業務を行う中で自動的に構造化されたデータを蓄積できるようにデジタル基盤上の業務プロセスの作り込みも徹底されているんです。
自動化の具体的な活用シーンとしては、例えば、展示会で取得した顧客リスト内の商談アポイントが取れなかったリード先に2回目、3回目のフォローメールを自動で送付する仕組みなど、自社流のベストプラクティスの構築に取り組まれています。取り組み開始前と比較してリードの獲得数が4倍に伸長した成果も出ており、セールスオペレーションのモデル化と他事業への展開が期待されています。
小松: 富士通では現在、グローバルでのCRM整備活用、グループ会社含めた全拠点を単一の企業組織としてシステムを構築して利用する「グローバルワンインスタンス」でのERP導入を急ピッチで進めています。またデータ利活用基盤も同時に整備していますので、今後AI活用の恩恵を受ける下地はできています。
個人的にAIを活用し得たい恩恵としては、商談に進むべき企業のレコメンドと社内のキーマンの特定、さらに言えばキーマンへのアプローチ方法を複数提示してもらうことです。おおよそのキーマンは変革意欲にあふれ、社外での講演機会やSNSでの発信などでその存在が分かる時代になりました。もちろんコンプライアンスに準拠し、個人情報の取り扱いルールに従った上ですが、どこの誰とどのテーマで商談ができるかを知れる日は近いように思えます。
村尾: 今後人手不足の課題が強まっていく日本において、テクノロジーによる業務の自動化・省力化は、営業に限らず会社組織・従業員の双方にとって必要な戦力です。一部企業で社内に構造的なデータを蓄積し、業務効率化を進めていく取り組みが進んでいるので、今後よりAIのユースケースが増えていくことを予想しています。
小松: 富士通がそうであるように日本企業でも危機感を持っている企業は存在し、そのような企業はデータの整備、蓄積に組織的に取り組んでいます。ただ、一朝一夕に変わるものでもなく、組織の情報資産を最大限活用するためには業務プロセスの標準化と旗振り役はもちろん、経営層の理解や複数部署の連携も欠かせないので、今から着実に準備を始めることが重要だと思います。
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