糸井重里の「ほぼ日」会社経営論 社員を飽きさせないことで生まれる「偽りの絆」:名刺に部署名を書かない理由(2/3 ページ)
糸井重里さんが社長を務める「ほぼ日」。同社は、社内のエリート人材を稼ぎ頭の手帳部門に回すという人事配置をしていない。一人でも多くの社員に活躍の場を与えることを考え、柔軟なチーム体制を構築していることが特徴だ。その真意を聞いた。
糸井「社員は僕のお客さんだと思っています」
――社員を飽きさせない――。確かに経営者には必要な資質だと思いますが、具体的にどうやってやるのでしょうか。
糸井: 考えるんです。何が起きているのだろうとか、こういうことをしたら、みんながまた面白く心が動くぞ、とか。「ほぼ日」の社員はみんな僕のお客さんだと思っています。だから「お客が退屈してるぞっ」となったら、これじゃ駄目だなと思って、退屈する前に何か策を打つようにしています。
一方で、大騒ぎを続けていくとくたびれるので、疲れさせない工夫も並行して考えているんですよ。疲れさせないことと、飽きさせないことは両方ないと駄目です。
例えばですが、社員が総出で企画から運営までを行う「生活のたのしみ展」というイベントを、今年はゴールデンウィークーに1週間、開催したのですが、その直後に地域の神田祭に参加しました。みんなで御神輿(みこし)を担いだり、僕も神輿の上に乗ったりしました。このときはお祭りが続いたので、みんなの疲れが気になりました。
――定期的に社内外でイベントを開くのも手なんですね。
小泉: 1カ月に1回ぐらいそういうイベントがあった方がいいと思いますね。やっぱり社内イベントがあると、社員同士が仲良くなりますし、その分結束力も強まったりします。それを社内イベントにとどめずに、コンテンツ化してお客さまも一緒に楽しんでもらうのは大事にしているポイントかもしれないですね。ただ社員を疲れさせないためにも、イベントの大小を使い分ける工夫も必要です。
――小さいイベントだと、どういうことをしているのでしょうか。
小泉: 例えば、直近だとほぼ日手帳の発売時に、社内で「発売みまもり隊」という企画がありましたね。今では手帳チームの人数もかなり増えたので、手帳チーム内で発売までの仕事が完結するようになりました。手帳の発売を、社内全体でちゃんと旗を振って盛り上げる取り組みですね。
糸井: 昔は手帳の発売は全社を挙げた作業で、大変だったんですよ。今の手帳のチームがどんどん育っていったので、全社を挙げなくても発売できるようになりました。自分たちで発送をしていた時代と比べるとかなり楽になったんです。
ただそうなると、他部署が「手帳が発売するらしいね」みたいに他人ごとになっちゃう。それだとつまらないわけです。例えばですが、社会人野球のチームが優勝しているときに、そのチームの企業の人が誰も応援していないとなったらつまらないじゃないですか。それと同じで、手帳のチームが一生懸命やっているときにみんなが一緒に心配してくれたり、楽しんでくれたりする状況を生み出したいわけです。
――それは社員を退屈させないだけでなく、アイデンティティーを持たせることにもつながりそうですね。
糸井: 手帳の発売という社の一大イベントを、ルーティンというつまらないものにさせたくないですよね。社内の人はお客さんだと思っていますから。働きたくて働いている人がいないとつまらないんですよ。「給料をもらっている分だけ働け」というのは誰でもいえるんですけど、それは嫌ですね。やはり「これがしたいです」っていう人の集まりにしたいんです。それをするためにも、飽きさせないとか、疲れさせないための努力をすることが経営者には必要だと思います。
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