セールステックを導入したのに逆に生産性が低下、なぜ? 実態と対策を解説:営業DXへの心理学的アプローチ(前編)(3/3 ページ)
営業現場では「セールステックを導入したのに、逆に生産性が下がっている」という声をよく聞きます。なぜそのような事態が起こるのか、そのワケを読み解き、心理学的アプローチを考えてみましょう。
セールステック定着に心理学的アプローチ
ここまで営業DXの必要性や実現をするために考慮すべき重要なポイントについて解説してきましたが、すでにセールステック導入の検討を終え、模索をしながら正しく進めている企業も少なくないことでしょう。
しかし、前述のような施策やシステムを定着させられている組織は決して多くはありません。なぜ、定着化(=変革の実現)ができないのでしょうか。
一般的に営業改革の施策やツール活用などの場合、行動変容のためには、大きく3つのステップがあります(図5)。
各ステップを上っていくためには、後述する「心のツボ」を刺激する必要があります。そのためには、まず対象となる人物像(ペルソナ)を特定することが重要です。変革に向けた施策やツール導入の際、一般的に社員は以下の5つのペルソナに分類できます。
- Commit:賛同する人
- Supportive:支持する人
- Undecided:決めかねている人
- Unaware:知らんぷりする人
- Oppose:反対・抵抗する人
変革を実行しようとする場合、多くの企業ではこのペルソナを設定せずに一律に変革の必要性を説き、施策の実現に付き合わせようとしますが、残念ながら「知らんぷりする人」や「反対・抵抗する人」は文字通りその変革には付き合ってくれません。それどころか、抵抗勢力となり、変革の邪魔をしてくるでしょう。
多くはこれを抑えるために労力を使ってしまい、変革の実現に力を貸してほしい、ポジティブ層(「賛同する人」「支持する人」)と浮動層(「決めかねている人」)とのコミュニケーションがおざなりになってしまうことで、変革の勢いを失うことになるのです。
あるクライアントでは、自社の営業組織の変革を行うにあたり、ペルソナを決め、中でもその変革施策を確実に実行に移してほしいターゲットペルソナを決めることで変革の勢いを落とすことなく、成功に導いた事例があります。
同社では、先ほどの5つのペルソナに加えて、図6のように営業成績を加味した6つのゾーンに社員のタイプを分類し、コミュニケーションの戦略を組み立てました。
例えば、Zone1は成績優秀者で、インセンティブ報酬(業績賞与)を重視していることが事前のアンケート調査で判明していたため、このZone1にはそれほど、コミュニケーションの時間をかけず、インセンティブ設計に関するメッセージを確実に伝えるのみにしました。
同じようにZone5もコミュニケーションの時間を効率化しました。ここは、いわゆるネガティブ層かつ、成績不振が該当するZoneであるため、コミュニケーションの時間を多く投じてもなかなか効果を得難いです。フォーマット化されたコミュニケーションにすることで、その分の時間と労力を本命Zoneに集中させられます。
また、コミュニケーションもいくつかのバリエーションを持たせて設計します。社長直々のメッセージを重視するチームタイプなのか、チーム長や所属のリーダーが対面で座談会やワークショップのような方法で認知・理解を取り付けたり、行動を促したりするのが効果的なのかなど、さまざまなコミュニケーションを通じて現場の行動変容をモニタリングし、成功に導くためのKPIなどを設計しました。図7にあるように、コミュニケーション施策をモニターするKPIはゲーミフィケーションの理論に基づいて設計をしています(図8)。
ゲーミフィケーションは、ソーシャルゲームなどのシナリオ設計などでよく使われている理論です。行動への欲求をつくり、行動に対して報酬を与えるもので、変革実現のジャーニーから離脱しないための施策作りに活用されてきました。
ここでは「帰属意識」や「ゲーミフィケーション」という心理学的なポイントにフォーカスした変革の実例をご紹介しました。近年は、ナッジ理論に代表されるような行動経済学をベースにした変革モデルが注目をされています。
次回は、行動経済学を用いてセールステックの定着化のメカニズムをわかりやすく解説していきます。
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