なぜ中央線は「グリーン車」を導入するのか 2つの“布石”が見えてきた:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
JR東日本が中央線快速電車に導入するグリーン車を、2024年度末の導入に向けて報道公開した。グリーン車は日本の鉄道の上級座席だが、なぜ上級座席があるのか。中央線快速電車のグリーン車導入を、大手私鉄の通勤用着席サービス列車と並べた報道もあったけれど、経営施策としては意味合いが違う。
JR東日本は10月18日、中央線快速電車に導入するグリーン車を報道公開した。2024年度末の導入に向けて準備が進んでいる。線路側の準備も進行中で、21日の夜から八王子〜高尾間を運休して線路切り替え工事が実施された。
10両編成にグリーン車2両を加えて12両にすると、プラットホームの延伸が必要だし、延伸部に分岐器があれば移設も必要。分岐器や線路を移動すれば架線も移設が必要になり、停止位置も変わるから信号系統のセンサーも移設が必要になる。踏切通過時間も延びる。たった2両、されど2両である。
JR東日本の首都圏5方面(東海道線・東北線・総武線・常磐線・中央線)のうち、中央線だけにグリーン車がなかった。割増料金を払っても良いから座って移動したいという人は待ち遠しかったことだろう。座席はリクライニング可能で全座席にコンセントとテーブルがある。Wi-Fiも使えるとのこと。ビジネスパーソンにはうれしい装備だ。グリーン料金は医療費控除の対象にならないとはいえ、都心部の総合病院に通う人にとっても朗報だろう。
グリーン料金は現在のJR東日本の規定通り。首都圏エリアは50キロメートルを境に料金が変わる。事前料金と車内決済料金があり、事前料金の方が安い。平日と休日では休日が安い。ややこしいから表を引用する。例えば八王子〜東京間は47.4キロメートルだから、平日の事前購入の場合は780円だ。高尾〜新宿間も42.8キロメートルだから780円。ただし高尾〜東京間は53.1キロメートルになるから1000円だ。
大月〜東京間は87.8キロメートルになる。平日の事前決済で1000円、休日の事前決済で800円だ。富士山や相模湖方面へ、座れるかどうか分らないロングシート車両に乗るなら、800円のリクライニングシートにおトク感がある。つまり通勤通学客だけではなく、行楽客にもうれしい。
07年に常磐線でグリーン車が導入されたときは、グリーン車の営業開始日前の約2カ月間は普通車扱いとしてグリーン料金なしで利用できた。サービス開始直前のひと晩ですべての車両にグリーン車を連結できないため、事前に少しずつ準備したからだ。連結したグリーン車を閉鎖扱いにする方法もあっただろうけれど、普通車扱いにしたことでグリーン車サービスが周知された。中央線でも実施したら良いと思う。誰しも快適さを感じると後戻りしがたい。営業施策として正しい判断だった。
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