統合報告書の「良し悪し」を専門家はどう判断している? 4つのポイントを解説:脱・紋切型(1/3 ページ)
統合報告書を公開する企業が増えている。一方で「他社が出しているからうちも」という紋切型の開示資料になってしまっているケースも見受けられる。では、統合報告書の「良し悪し」はどう判断すればよいのか? 情報開示、コーポレートガバナンスを専門とする、一橋大学 大学院の円谷昭一教授に取材した。
多くの大企業が情報開示の一環として、統合報告書を発行するようになった。統合報告書とは、財務と非財務の両方の観点から自社の優位性や経営ビジョン、今後の事業展開やその見通しについてまとめた報告書で、投資家向けと位置付けられている。
会計監査や税務、経営コンサルティングを主力とするKPMGジャパン(東京都千代田区)が、同社のセミナー参加者を対象に実施した調査によると、76%が所属する企業が2023年の統合報告書を「作成している」と回答。22年から15ポイント増加し、初めての7割超を記録した。
企業が情報開示することで、日本経済全体にさまざまなメリットがもたらされるのは言うまでもない。転職市場の活性化や投資機会の増大など、経済成長につながっていく。本来そういった役割を期待されていたが、現在の統合報告書は「他社が出しているからとりあえず当社も」という義務感で担当部署に丸投げされている実態も少なくない。
情報開示、コーポレートガバナンスを専門とし、多くの統合報告書に触れてきた一橋大学大学院 経営管理研究科 円谷昭一教授は「投資家にとって物足りない資料になっているのではないか」とも指摘する。
では、統合報告書の「良し悪し」はどのように判断すればよいのか? また、統合報告書を作成する上で今後重要になるポイントについて、円谷氏に話を聞いた。
統合報告書の「良し悪し」を判断する4つのポイント
円谷氏は統合報告書の良し悪しを判断する4つのポイントとして、(1)トップメッセージの質、(2)社外取締役のメッセージの質、(3)他の開示資料との重複率、(4)企業独自のこだわりを挙げる。
(1)トップメッセージの質
円谷氏は「誰が書いているか」に注目すべきだと話す。トップ自身が執筆しているケース、事務局がトップにインタビューし文字起こししているケース、そして事務局が下書きを作成しているケースの3つがある。
「暗黙知ではありますが、例えば『今期は株価が低迷しており、株主の皆様にはご迷惑をおかけしています』といったセリフはトップ以外の口から出ることはないと思います。事務局が執筆すると、どうしても忖度が生まれます。『今期は、中期経営計画の何年目で〜』という平凡な書き出しで、内容も物足りない」(円谷氏)
誰が書いているかが、その企業の「統合報告書の重み」を示唆しているようだ。
(2)社外取締役のメッセージ
この点については、社外取締役が「社外取締役として機能しているか」という観点でメッセージを読むべきだと指摘する。社内の人間と同化した発信に偏らずに、一歩引いた立場からその企業の課題や今後の可能性を分析できているかが重要であるという。
円谷氏は4つの指標の中でも、トップメッセージと社外取締役のメッセージの重要度が高いと話す。
「全てがパーフェクトな企業は存在しません。足りないところを変えていこうという意思が見えるから、そこに投資チャンスが生まれるのです。変わろうという意思や変化が見られるか、そこを投資家は見ています。トップが意思を表明し、社外取締役は会社の状況を客観的に分析し、健全に批判する――この体制が会社のガバナンスや信用を強くしていきます。トップメッセージはSWCC、社外取締役のメッセージは明治HDなどが参考になると思います」(円谷氏)
統合報告書から投資機会が読み取れないため、投資家にとって価値が下がっているのだ。また、統合報告書は投資家向けと位置付けられているが、企業の方向性を示すという意味では従業員や学生に向けての重要なメッセージともなる。「他社がやっているから、じゃあ当社も」という軽い気持ちで取り組むと、後でツケを払わされるかもしれない。
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