統合報告書の「良し悪し」を専門家はどう判断している? 4つのポイントを解説:脱・紋切型(2/3 ページ)
統合報告書を公開する企業が増えている。一方で「他社が出しているからうちも」という紋切型の開示資料になってしまっているケースも見受けられる。では、統合報告書の「良し悪し」はどう判断すればよいのか? 情報開示、コーポレートガバナンスを専門とする、一橋大学 大学院の円谷昭一教授に取材した。
(3)他の開示資料との重複率
(3)の指標からは「紋切型の統合報告書が多い」という課題が浮かび上がってくる。統合報告書は自由演技の側面が強い。一定規模以上の企業に求められる開示要件はありつつも、それ以外の内容は自由に構成できる。そうなると、企業は「どこまで開示するのか」という疑問に直面する。
「特に、非財務情報の収集と開示が難しいです。競合他社に知られたくない情報や、女性活躍に関連する数字など出したくない情報もあるでしょう。それらを事務局が各部署に『出してください』と依頼しても一筋縄ではいきません。結局、既存の公開資料に載っている情報を集めてきて、それっぽくまとめ直しただけの資料が量産されているのが現状です」(円谷氏)
既存の開示資料で伝えられていない情報があるから統合報告書を出すわけであって、既存資料の焼き直しでは意味がない。トップが旗振り役となって整備していかないと、統合報告書の内容は変わっていかないだろう。
(4)企業独自のこだわり
「企業独自のこだわり」は、どのように統合報告書に表れるのだろうか。紋切型で作られた統合報告書のフォーマットは大体似通ってくるが、こだわっている企業は自社の型を確立しているという。具体的な企業を挙げながら、円谷氏はこのように話す。
「伊藤園の統合報告書は、ESGのEの開示比重がとても大きいです。『お〜いお茶』にひも付くマテリアリティや戦略を掲げています。ユニ・チャームはESGのSを前面に押し出している印象です。主力商品のおむつは、いまや幼児だけでなくお年寄りニーズも高いです。同社の成長が人々の幸せに直結しているというメッセージが読み取れます。ESGのGが強いのはアサヒグループHDでしょうか。21年の統合報告書では、トップメッセージの次に社外取締役のメッセージが掲載されており、設計に強い意図を感じました」(円谷氏)
自社のビジネスや、自社にとって重要な内容を優先度高く出せているか、といった点に注目すると、各社がどれだけ統合報告書に力を入れているか見えてくる。
ここまで、統合報告書の良し悪しを判断するための4つのポイントを紹介した。では、この点を踏まえて統合報告書を作成していれば評価され続けるのかというと、残念だがそうではない。
より評価される統合報告書にしていくためには、現在の財務情報・非財務情報だけでなく、「未財務情報の開示」が重要になると円谷氏は持論を展開する。
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