統合報告書の「良し悪し」を専門家はどう判断している? 4つのポイントを解説:脱・紋切型(3/3 ページ)
統合報告書を公開する企業が増えている。一方で「他社が出しているからうちも」という紋切型の開示資料になってしまっているケースも見受けられる。では、統合報告書の「良し悪し」はどう判断すればよいのか? 情報開示、コーポレートガバナンスを専門とする、一橋大学 大学院の円谷昭一教授に取材した。
未財務情報とは?
未財務情報とは一言で言うと「財務情報と非財務情報をつなぐストーリー」だ。円谷氏は「現在の統合報告書は、財務と非財務に関する数字的な事実を羅列しているだけの資料も少なくない。散在している既存の情報を集めてきただけで、企業の意図が読み取れない資料になってしまう」と指摘する。
よく話に上がる「女性活躍」を例に、未財務情報を考えてみたい。各社が女性管理職比率など、自社の女性活躍の状態を開示しているが、円谷氏によると「だたの数字」でしかない。
まずは「女性がどういう状況になると活躍していると言えるのか」を定義するところから始める必要があるという。「女性管理職の増加と女性活躍」に因果関係があるかは、各社で異なる。「管理職になることが女性活躍」と思考停止するのではなく、「当社では女性社員がこういう状態なのが活躍。そうすることで、生産性向上や売り上げ増加、そしてコスト削減が期待できます。当社は女性活躍の指数としてこういうのを設けていて、そのうちの一つが管理職比率です」といったように、数字を交えたストーリーで示すのだ。
「現在取り組んでいる施策は、将来的に財務価値へと変換される」というストーリーが未財務情報に当たる。その視点で自社の取り組みを振り返る内容が統合報告書に盛り込まれれば、透明性や信頼度がアップデートされ続けていく、と円谷氏は分析する。
円谷氏が指摘するように、現在の統合報告書はいち開示資料にとどまってしまっている。そして残念ながら、多くの企業が「手間をかけて作ってもあまり読んでもらえない」という厳しい状況に直面している。さまざまなステークホルダーとのコミュニケーションツール、そして日本経済を成長に導く資料として、われわれの甘えた考えを裏切っていってほしい。
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