セールステックを導入したのに”宝の持ち腐れ”に? 多くの企業がハマる「落とし穴」:営業DXへの心理学的アプローチ(後編)(3/3 ページ)
セールステックを定着させ、意思決定に活用できている企業は約3割にとどまっています。多額の予算を投じ導入したにもかかわらず、なぜ多くの企業で「宝の持ち腐れ」状態になってしまうのか。導入プロセスでハマる「落とし穴」と抜け出す方法を解説します。
「どのような施策」が、セールステック定着に効果的なのか?
導入したセールステックが、役に立つ(正しく使いこなすことで、業務効率化と営業成績の向上を実現できる)ツールとなっていることを前提とすると、セールステックの定着化を図るためには、そのストレスを抑制していくことが重要となります。ストレスさえうまく抑制できれば、役立ち感と業務効率化への有用感は自動的に高まるからです。
その上で、セールステックに対するストレスをどれだけ抑制できるかは、(1)組織内のサポートの充実度、(2)ヘルプデスクの有能さ、(3)営業担当者のこだわり醸成度の3要因で決まることを先に紹介しました(図3)。
これを踏まえると、セールステックの導入にあたって、認知のステップを獲得するためのマニュアルやeラーニングなどのサポート用のコンテンツの整備に多額の費用をかけるよりは、その分を戦略的に導入初期の「人を介したサポートの充実化」に当てる方が効果的だと分かります。
具体的には、営業担当者3人に1人程度のITサポート役を配置し、使い方に慣れるまでは手厚くサポートしていく方法です。これによって、企業としてセールステックを積極的に利用する雰囲気を醸成できるだけでなく、ITサポート部門と営業担当者の密なコミュニケーションを通じて良好な関係を構築できるため、(1)の期待感向上につながります。また、ITサポート役がヘルプデスクの役割も担うため、同時に(2)への期待感も高められます。
さらに(3)を高めることを狙い、新たなセールステックの導入に際して、営業担当者のキーマンやインフルエンサーにあえて「どのようなツールが必要か」を相談していくことも有効であると考えられます。
セールステック定着化をアップデートさせ続けるためには
本連載では、セールステック導入の実態と、なぜ定着化が成功裏に進まないのかを「行動経済学」の側面から読み解きました。読者の中には無意識的に、そして経験的に理解している内容だったかもしれません。
しかしながら、メカニズム(因果関係)を体系的に把握したうえで施策を検討することで、セールステック定着をより加速させられでしょう。
なお、本連載では詳しく触れませんでしたが、セールステック定着化の施策をアップデートし続けるためには、正しく目標値(オンボーディングKPI)を設計し、その進捗状況を行動データ(Work Log)と照らし合わせてモニタリングしていくことも不可欠です。
「正しく定着化のジャーニーを進んでいるのか」「どこで停滞しているのか」といった利用実態を常に可視化し、PDCAサイクルを回していくことは、真の意味での営業DXを実現するために重要な活動といえます。本連載が、読者のセールステック定着化のヒントとなれば幸いです。
筆者プロフィール:伊原克将(EYストラテジー・アンド・コンサルティング)
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジック インパクト シニアマネージャー。行動科学トランスフォーメーション(BX)を切り口とした官民の戦略構想プロジェクトを多数手掛ける。その他に、気候変動・省エネルギー分野における行動経済学・ナッジ政策の提言や、低炭素技術に関する認証制度の設計・運営など、国の政策手法の検証や制度設計に関わる多数のプロジェクトに従事。大手印刷会社、米国系会計コンサルティングファームを経て現職。共著書に『カーボンZERO気候変動経営』(日本経済新聞出版)、『実践行動経済学2.0 人を動かす心のツボ』(日経BP 日本経済新聞出版)。
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