セールステックを導入したのに”宝の持ち腐れ”に? 多くの企業がハマる「落とし穴」:営業DXへの心理学的アプローチ(後編)(2/3 ページ)
セールステックを定着させ、意思決定に活用できている企業は約3割にとどまっています。多額の予算を投じ導入したにもかかわらず、なぜ多くの企業で「宝の持ち腐れ」状態になってしまうのか。導入プロセスでハマる「落とし穴」と抜け出す方法を解説します。
セールステック定着を行動経済学で実現する
多くの企業が実践しているセールステックの定着化を図るための活動がズレているのは、定着化のメカニズムを適切に理解できていないことに起因します。
例えば、セールステックを十分に活用できていない理由として「難しい」や「使い方が分からない」といった理由が上位にくることが多いです。
実際に調査でも、セールステックを活用できていない上位3つは「使い方・操作が難しい」「機能を使いこなせない」「導入したばかりで、使い慣れていない」となっています。
しかし、こういった課題を解消するためにマニュアルを整備したところで、必ずしも行動変容を促せるわけではないことは、多くの読者が経験済みだと思います。
セールステックの定着化に向けては、行動経済学に基づくさまざまな先行研究が役に立ちます。先述した行動経済学の先行研究を、当社が独自開発した人を動かすための「心のツボ」を体系化したフレームワークを活用して解釈すると、セールステックの定着化のメカニズムは、図2のようになります。
まず、セールステックの利用促進には、以下の4つの心のツボを全て押さなければなりません。
- (1)利得感(行動することは得であり損ではないから「したい」という感覚)
- (2)有能感(自分の能力を考慮した際に、自分でも行動「できそう」という感覚)
- (3)容易感(行動が面倒ではないため、自分でも行動「できそう」という感覚)
- (4)実現意思(行動によって達成したい目標の明確性・具体性と行動する意思を具体的な計画に落とし込めている程度)
まず(1)の向上には「提案内容の質を高めるために有用か(提案内容への有用感)」と「商談に対して有益であるか(商談への有益感)」の2つを実感させる必要があります。
(2)の向上には「業務が効率化されそうか(業務効率化への有用感)」に加えて、「習熟にてこずりそうか(てこずりそう感)」と「新しいテクノロジーの導入によって自分の居場所がどこまで脅かされるのか(新技術への脅威感)」をいかに軽減していくかが求められます。
(3)の向上には「自分のタスクがどこまで増加しそうか(タスクの増加度合)」と「どれだけプライベートを犠牲にする必要がありそうか(プライベートの犠牲度合)」という気持ちをいかに軽減できるかが求められます。
最後に(4)の向上には「セールステックを使いこなして、タスクを完了できそうか(完了できそう感)」を実感させなければなりません。
このようなプロセスを経て、セールステックの利用率を上げていきます。ここで重要な点は(1)〜(4)全てのツボを押し続けるためには、初回の利用体験が非常に重要であるということです。
初回で「習熟にてこずりそうだ」「自分のタスクが増加しそうだ」という気持ちを抱かせてしまった場合、2回目以降の利用において(2)のてこずりそう感や、(3)のタスクの増加度合が高まり、心のツボが押されづらくなります。
以上のメカニズムを踏まえると、セールステックの利用を促すためにマニュアルを整備したところで、必ずしも行動変容を促せるわけではないと分かります。
マニュアルの整備は、せいぜい「てこずりそう感」の軽減にしか影響を与えず、他の押すべき心のツボには作用しないからです。仮にマニュアルが分かりづらかった場合、逆効果にさえなり得ます。
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