セールステックを導入したのに”宝の持ち腐れ”に? 多くの企業がハマる「落とし穴」:営業DXへの心理学的アプローチ(後編)(1/3 ページ)
セールステックを定着させ、意思決定に活用できている企業は約3割にとどまっています。多額の予算を投じ導入したにもかかわらず、なぜ多くの企業で「宝の持ち腐れ」状態になってしまうのか。導入プロセスでハマる「落とし穴」と抜け出す方法を解説します。
前半では、多額の予算を投じセールステック(SFAやCRMなどの営業支援ツール)を導入したのにもかかわらず、結果として宝の持ち腐れとなっている企業が少なくないという現状について触れました。
営業企画白書2023によると、SFAやCRMを使用している企業のうち、その利用が十分に定着し意思決定に活用できているのは約3割にとどまっています。別の調査では、56%の企業が「セールステックをうまく利用できていない」と回答しています。また、同調査では、14%の企業しかセールステックの導入によって営業活動が強化された(役に立っている)と回答していません。
つまり、半数以上の企業でせっかく導入したセールステックの利用が定着せず、役立てられていないといえます。まさに、宝の持ち腐れ状態です。
このような状態が発生する理由の多くは、セールステックそのものに原因がある場合を除くと、現場に「ストレスが少なく、役に立っている」と実感させるための活動を企業が軽視していることに起因します。
多くの企業が「ここ」で間違う、セールステック導入の落とし穴
多くの企業はセールステックの利用を促すために、できる限り人を介さないサポートを採用しています。
DX白書2023によると、社員のITスキル向上・獲得のための教育方法として、コンテンツ学習が最も多く採用されています。コンテンツ学習には「書籍・雑誌による学習」「Webでの情報収集」「オンライン講座などによる学習」「有償の研修やセミナーなどへの参加」などが含まれます。要するに、操作マニュアルなどのコンテンツを使って学習を促すサポートを指します。
また「DX・デジタル人材育成トレンド調査2022」によると、DX・デジタル人材の教育方法として最も活用されているサポートの上位3つは「自社のeラーニング」「自社内製の研修」「社外の専門家による研修」となっており、前述したDX白書2023と同様に、コンテンツ学習が多くの企業で採用されていることが分かります。
以上のように、多くの企業は人を介したサポートではなく、コンテンツを使ったサポートを採用しています。しかし実は、営業支援ツールを定着させるためには真逆の方法を取る必要があります。
英国の大学で経営学を専門とする教授・Tarafdarらの先行研究を踏まえると、セールステックの定着化においては、現場の営業担当者に対して「ストレスが少なく、役に立っているか」を初期段階でいかに実感させるかが重要であるという事実が見えてきます(図1)。
同研究では、役立っている感を持たせるためには、人を介したサポートが重要であると示しています。セールステックの利用を促す際の人を介したサポートの重要性については、複数の研究が示唆しています。
例えば、Tarafdarらの先行研究によると、セールステックに対するストレスをどれだけ抑制できるかは(1)組織内のサポートの充実度、(2)ヘルプデスクの有能さ、(3)営業担当者のこだわり醸成度の3要因で構成されることが明らかにされています。
具体的に言うと、(1)はセールステックに対して組織内の知識の共有が推奨されている程度やIT部門と営業部門との関係性を指します。(2)はセールステックに関するヘルプデスクへの問い合わせの容易性や、スタッフの知識の豊富さを指します。(3)はセールステックを利用することに対するインセンティブ有無や、営業担当者によるセールステック導入に対する関与度を指します。
しかし、この中でコンテンツ学習に関連する要因は(1)の一部(トレーニングの有無やマニュアルの明確さ)のみです。その他の要因は「営業部門における関係性の良好さ」や「ヘルプデスクの担当スタッフの知識の豊富さ」など、人を介したサポートに関連する要因となっています。
つまり、多くの企業が実践しているセールステックの利用を定着させるためのサポート(=コンテンツ学習)は、行動経済学の知見を踏まえるとズレている(ストレス解消に向かわない)といえます。
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