組織文化と上司とのコミュニケーションを工夫
それでは、どのような組織文化、上司がいかなるコミュニケーションをとれば、若手社員の管理職意向にプラスの影響があるのだろうか。それを見たのが図6である。組織文化については7項目、上司とのコミュニケーションについては19項目を検討した。
その結果、組織文化では「上の者に対しても言いたいことが言える」などの「自由闊達・開放的」であること、上司とのコミュニケーションでは「上司にプライベートな話も聞いてもらっている」などの「自己開示できる親密さ」が若手社員の管理職意向に対してプラスの影響があることが分かった。上司の顔色をうかがうこともなく、比較的自由に意見が言える職場であること、そして自分のプライベートな話もできるほど上司との関係が親密であること、こうした要因が、若手社員の管理職になりたいという思いに結びついているのである。
管理職であるミドル社員の見せる「大変さ」が若手社員にとって「重い」と感じることはあるだろう。図としては示さないが、若手社員にとって管理職になりたくない最大の理由は「責任が重すぎる」であった。若手社員が管理職になりたいと思うには、管理職の職務に関わる「重さ」を解除していくことが必要である。そして、それだけではなく、管理職自身が感じている「やりがい」が若手社員に伝わるような組織文化やコミュニケーションの在り方も重要であろう。自由闊達で開放的な組織文化と自己開示ができる親密な関係性を築くことは、若手社員に管理職の「やりがい」を伝える手段として有効ではないだろうか。
まとめ
本コラムでは、「若手社員は管理職になりたがっていない」論を、「働く10,000人の就業・成長定点調査」の結果(23年)に基づいて検討した。
本コラムのポイントは、次の通りである。
- 管理職になることに対して消極的な層は若手社員の2人に1人おり、積極的な層が3人に1人であることを考えると、「若手社員は管理職になりたがっていない」論は妥当であることが分かった。また、性別、子ども有無別、学歴別、企業規模別、業種別に見ると、女性、子ども無し、専門・短大・高専卒、中小企業、医療・福祉などの「社会サービス」といった属性の若手社員の管理職意向が特に低くなっていた。
- 管理職として働くミドル社員は、同年代の一般社員と比較したとき、会社全体への満足度、職場の人間関係満足度、仕事内容への満足度、仕事の幸せ実感が高くなっていた。若手社員が管理職になりたくないと考える一方で、実際に管理職として働くミドル社員は充実した就労生活を送っていた。パーソル総合研究所の先行調査(「中間管理職の就業負担に関する定量調査」)において、管理職の置かれた状況の厳しさを指摘していることを勘案すると、若手社員に対しては管理職の大変さだけが強調され、そのやりがいが十分に伝わっていない可能性が示唆された。
- どのような組織文化、どのような上司によるコミュニケーションが若手の管理職意向にプラスの影響があるのかを見ると、上司の顔色をうかがうこともなく、比較的自由に意見が言える職場であること、また自己開示できるほど上司との関係が親密であることが重要であった。
若手社員の管理職意向に関する課題を若手社員個人の問題とするのではなく、組織文化や世代間コミュニケーションの問題として位置付けること――「若手社員は管理職になりたくない論」を検討して見えてきたのは、まさにこうしたことの重要性である。
児島 功和
日本社会事業大学、岐阜大学、山梨学院大学の教員を経て、2023年4月より現職。大学教員としてはキャリア教育科目の開発・担当、教養教育改革、教員を対象とした研修運営などを担当。研究者としては、主に若者の学校から職業世界への移行、大学教職員や専門学校教員のキャリアに関する調査に関わってきた。
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