氾濫する「販促どまり」マーケティング ”売れ続ける”をつくる競争力の磨き方:トライバルメディアハウスのマーケ戦略塾(4/4 ページ)
マーケティングの目的は消費者に買ってもらうことです。にもかかわらず、短期的な成果を追いすぎて中長期的な競争力がそがれてしまっている事象が頻発しています。マーケティングROIを高い状態に保ち、植え続ける状態をつくるためにはどうすべきでしょうか?
「いますぐ客」の効率獲得だけでは、他社との差はつかない
しかし、各社が限られたパイの「いますぐ客」の獲得を目指し、同じデジタル広告という手法でしのぎを削るわけですから、そこでの競争の差はつきづらくなります。下図の左に位置する「収穫施策」は「やらなければ負ける」が、「やったから勝てる」領域ではなくなりつつあるのです。
では、どこで差がつくのでしょうか。私は「種まき施策」だと考えています。
「北海道旅行に行きたいな」と思ったとき、検索エンジンで「北海道 ホテル おすすめ」と検索させてしまうのではなく、(雲海テラスのある)「星野リゾート トマム」と名指し検索させられたら勝ちなのです。
リスティング広告は、検索という行為がされて初めて自社の広告を表示できますが、「検索ワード」に影響を与えることはできません。種まき施策は、ニーズが顕在化したとき、検索エンジンに打ち込む「検索ワードそのもの」に影響を与えようとする(第一想起→ブランド指名検索をしてもらう)息の長い活動です。
右側の種まき施策は「そのうち客」の育成が目的となります。そのため「いますぐ客」の効率的獲得、つまり今期売り上げへの影響は限定的です。結果として、各社のマーケティングコミュニケーション施策は左側に偏ります。だからこそ右側の種まき施策で差がつくのです。競合と同じことをやっているうちは、大きな差はつけられません。
多くの顧客ニーズが潜在期にある買回り品や専門品は顧客を時間軸で捉え、「いますぐ客」の短期的な効率的収穫(≒費用対効果施策)と、「そのうち客」の中長期的な効果的育成(≒投資対効果施策)のバランスを保った施策のポートフォリオを設計することが肝要です。
次回は、書籍やセミナーで学んだ有用なフレームワークを使って戦略を策定したのに、いまいち成果につながっている実感が得られない要因とその回避法について解説します。
著者紹介:株式会社トライバルメディアハウス代表取締役社長 池田 紀行
1973年横浜生まれ。マーケティング会社、ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタントなどを経て現職。大手企業300社以上の広告宣伝・PR・マーケティングの支援実績を持つ。宣伝会議マーケティング実践講座 池田紀行専門コース、JMA(日本マーケティング協会)マーケティングマスターコース講師。 年間講演回数は50回以上で、延べ3万人以上のマーケター指導に関わる。近著『売上の地図』(日経BP)、 『自分を育てる働き方ノート』(WAVE出版)ほか著書・共著書多数。Twitter:@ikedanoriyuki
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