松尾豊東大教授が明かす 日本企業が「ChatGPTでDX」すべき理由(3/3 ページ)
松尾豊東大教授が「生成AIの現状と活用可能性」「国内外の動きと日本のAI戦略」について講演した。
ホワイトカラーの仕事ほぼ全てに影響が出る
ChatGPTによって今後ビジネスはどう変わっていくのか。
松尾教授は、「既存ツールの使われ方に大きな変化が生まれ、これまでには不可能だった専門的な業務を代行できるツールが多く誕生する見込み」だとみる。これまでのホワイトカラーの仕事ほぼ全てに影響が出る可能性が高いという。
汎用目的技術(GPT)は、インターネットやトランジスタ、エンジン、電気などに匹敵する「数十年に一度の技術」だといわれている。人類社会への影響も大きい。例えばゴールドマンサックスの調査では、主要な経済圏で今後は3億人規模のフルタイム労働者が自動化の影響を受けるという。
ChatGPTが能力の低い労働者に利益をもたらし、労働者間の不平等が減少するというMITの調査もある。マイクロソフトによるAIの利用に関する調査では、70%の人が自分の仕事量を減らすために多くの仕事をAIに任せたいと考えているという。
国内でも活用の事例がどんどん増えている。パナソニックコネクトや大和証券、ベネッセやサイバーエージェント、行政では横須賀市など、ChatGPTを活用する企業や団体が増えた。松尾研究室でも、香川県三豊市と共同で取り組む実証実験として、ゴミの出し方をChatGPTが教えてくれるサービスの展開を始めている。これは、ChatGPTにゴミの出し方の情報を事前学習することによって、可能にしたものだ。
ChatGPTを用いる利点の一つに、学習データが日本語だけでも、多言語対応が可能だという点がある。そのため、日本語が分からない外国人住民にもゴミの案内ができるという。やり方も難しくない。
(1)自治体Webサイトのゴミ案内を検索可能な形で保続しておく。
(2)ユーザーの質問と関連度の高い情報を、保存データから検索し、プロンプト(ChatGPTへの指示)へ入れる。
(3)ChatGPTが、Webサイト上のデータを参照しながら答える。
既存のChatGPTを少しカスタマイズすれば誰でもできてしまうため、行政のゴミ出しに限らず、さまざまな企業が同様のサービスの展開を進めている。このようなChatGPTの活用をより広げる技術には「LangChain」や「LlamaIndex」というものがある。
松尾教授がこうアドバイスする。
「例えばこれを企業向けにする場合、組織内の文章を検索可能にして、組織内の文脈を踏まえて答えられるようにしてください。これだけでも相当使えるようになります。これは自社でエンジニアがいたら自社でも普通にできますし、いなければ、スタートアップやベンダーに頼んでください」
企業において、大規模言語モデルの活用方法は3段階あると松尾教授は言う。
ステップ1が、ChatGPTをはじめとするChatbotの導入だ。これにより、まずはChatGPTで文章執筆支援やブレストなど、一般的な活用をして操作に慣れてもらう。ステップ2が、先述の組織専用GPTだ。ChatGPTを外部ツールを使ってカスタマイズし、組織内文書を検索可能にし、組織内の文脈を踏まえて答えられるようにするというものだ。これはそこまで高度なものではなく、自社にエンジニアがいれば自社開発も可能なものだ。
そしてステップ3が、実際に大規模言語モデルを使ったDXだ。これは、ChatGPTなどによって一部業務を効率化したり自動化したりするもので、業務改革と呼べるレベルのものだ。これは業務プロセスの変更を含む大きな開発が必要になるため、スタートアップやベンダーに依頼することになるという。
「ChatGPTの活用は企業DXの入り口になります。なので、ここに進んでください。システムをどう変えていくか。どうデジタル化していくか。どう業務を変えていくかという変革のきっかけになります。ChatGPTはこうした業務改革にもつながっていると思います」(松尾教授)
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